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「サメロ自身が石使いだった。よもや、王室に石を使える者がいたとはな。石を使える素質があるとわかれば、たとえ王族でもスクーロが放っておかないはずだ。自分に素質があることを、今までひた隠しにしておったのだ。スクーロに行かなかった奴が一体誰から石の使い方を教わったのか知らんが、俺から紅の石を奪い、手下に引き込んだ石使いたちを使って、この砦に封じ込めた」
「そんなの、僕の知ってる世界と全然違う……」
リックが住んでいたのは、王都から遠く離れた国境近くにある小さな村だ。村にある大きな建物といえば聖堂ぐらいのもので、果てのない空と大地しかない場所で育ったリックにとって、スクーロや石使い、そして王室のことは、おとぎ話のように現実感のないものだった。
「そなたの来た世界がどのようなものかは知らんが、すべて事実だ。そして俺は一刻も早くマグを救い出し、サメロから紅の石を取り戻さねばならん。そのために、そなたも力を貸してくれ」
「でも、僕は石の使い方を知らないし」
「いつまでもここにいることの方が危険だ。いくら時の流れが遅いとは言え、出られぬ限りは緩やかに死へと繋がっているようなものだからな」
アロモは冷たく乾いた指先で、つるりとリックの頬を撫でた。
「何がどうして、先の世界から自分の子供がやってきたのかはわからん。しかし理由があるのだろう。そうだとしたら、ここに留まっているべきではない」
アロモはリックの肩を抱えると、「行くぞ」と言って勢いよく灰色の雲に飛び込んだ。雲が視界を遮ることをものともせず、空中に浮かぶ岩から岩へ、飛ぶように空を駆け下りる。しかしリックは息をすることもままならず、かろうじて目を開けているのがやっとだった。
「しっかりしろ。ここから先は、そなたひとりで行くのだぞ」
アロモは空中でリックの体を離そうとしたが、リックはアロモの体に縋りついた。
「やっぱり、無理だよ!」
「こら、俺にくっついたままではいかん!」
下からの強い風圧に、リックは固く目を閉じた。しかし次の瞬間ぴたりと風が止み、地面に足が着いている。ゆっくり目を開けると、そこは先ほどまでいた砦のなかだった。
「だから、俺にくっつくなと言っただろう!」
「どうして? さっきまで空を落ちていたのに!」
「それが俺にかけられた呪いだ。塔から飛び降りて地上に下りようとしても、体が勝手に戻されてしまう。俺にしがみついていたから、そなたも一緒に戻されてしまったのだろう。俺がここから出るには、この塔ごと破壊する必要があるんだ」
「無理だよ、飛べない……」
リックがその場にへたり込むと、アロモは乱暴にリックの肩を掴み、すぐに無理やり立ち上がらせた。
「たとえば鳥になることを想像してみろ。自分に翼があって、その翼を動かすのではなく、大きく伸ばして風に乗る」
「腕を広げるの」
「腕が翼になると思っても、背中に翼があると感じても構わん。とにかく自分が空を飛ぶということを想像しろ。まずはそこからだ」
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