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第17話 紅と碧
朝日に照らされる東の塔を見て、アロモはマザレに囁いた。
「もう少し早い方が良かったのではないか? 陽が昇ってしまえば、向こうもすぐ動く」
「闇に紛れて夜討ちを狙うほど、我らは落ちぶれていません。私の元に残った者は僅かですが、いずれ劣らぬ精鋭たち。数で負けても、力の差は歴然としているはずです」
マザレは研ぎ澄まされた紫の石が付いた杖を東の塔に向けた。それを合図に、石使いを乗せ、翼を携えた動物たちが一斉に羽ばたきだす。
「我らも行こうぞ」
大鷲に乗って飛び出したベラは後発にも関わらず、すぐさま前線へと躍り出た。その下で、ヌーヴォが乗った狼が駆けていた。
「クレイダのお主が、戦に参加してよいのかえ」
「私は里を出ました。もう正式なクレイダではありません」
「お主の神も都合が良いのう。死ぬでないぞ」
マザレは目を細めて行く者の背を見送ると、隣に立つアロモとリックに振り向いた。リックの傍らには、リックに懐いて付いてきた若馬のシズクが控えている。
「リック、あなたのような少年は皆スクーロに置いてきました。本当に行きますか? 今からだって、引き返していいのよ?」
「僕が行ってもどうしようもないかもしれないけど、ヴィントさんと約束したんだ。ちゃんと、父さんと母さんのことを見ていたい。アロモも許してくれたよ」
リックがアロモを見上げると、アロモは仕方ないというように笑っていた。
「俺の子にしてもマグの子にしても、まして両方の血を引いているのなら、何を言っても聞かんだろ。親の俺なら何と言ったか知らんが、今の俺がリックを無理に止めることはできん」
確かにそうかもしれないと、マザレも苦笑した。
「案ずるな、俺がリックに付いて行く。ついでに石の使い方も教えてやろう」
そう言ってアロモがシズクに乗ろうとすると、シズクは手綱を取ったアロモを突き飛ばすように暴れた。勢いに負け尻もちをついたまま困惑しているアロモに、リックとマザレは顔を見合わせて笑いを堪え、リックは宥めるようにシズクの背を撫でた。
「シズク、大丈夫だから」
「この子はあなたに手綱を取られるのが嫌なようね。始めから自力で飛んでいたあなたのこと、跨られる動物の気持ちがわからないのでしょう」
「俺がリックの後ろに乗るのか……」
「共に行くなら、それしかないようよ」
リックは体に弓道具を掛け、軽々とシズクの背に飛び乗る。するとシズクはたちまち尻尾を振るほど大人しくなり、アロモは渋々、リックの後ろに跨った。
最後に出たにも関わらず、シズクは器用に他の動物たち避け、臆することなく悠々と駆けた。風のようなその走りに、アロモは先ほど冷たくあしらわれたことも忘れ、すっかり感心したようだった。
「早く翼を与えてやるといい。これだけよい馬であれば、よく飛ぶ」
「そう言われても、どうすればいいのかわからないよ」
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