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第3話 少年兵と王子
ヴェレーガル王立軍第三師団曹長オート・クラーゾは、王都から南に遠く離れた国境近くに住む、少しばかりの痩せた土地を持つ領主の息子だった。
父親は自ら鍬を持って畑を耕すほど長閑な人柄で、領主と言うより農夫に近い人物だった。もちろん領土の拡大など微塵も考えておらず、領内に暮らす民のことを家族のように思い、豊作の年は共に収穫を喜び、不作の年には苦しみを分かち合った。
おかげでオートを始め母や妹はおよそ領主の一族とは思えないほど平凡な暮らしをすることになったが、領民やその子供たちからも慕われ、一家は穏やかな日々を送っていた。
転機はオートが十歳のときに訪れた。それまでずっと良好な関係を築いていたはずの隣の領主が代替わりした途端、何の前触れもなく父の領内に攻め込んできたのだ。
武器の備えもなく、たいした兵も持っていなかった父は、あっという間に降伏した。国は辺境の地の名もない領主に構っている暇はないようで、事が公になった後も、領主同士での善処を求めるとの通達しか寄越さなかった。
それからの生活は一変した。まず、オートの一家は普通の領民と全く同じような扱いを受けた。父の領民には新しい領主の恣意により重い役が課せられ、それは父にも等しく課せられた。
元々裕福な暮らしをしていたわけではなかったが、それはまだ恵まれた生活だったのだと、オートは後から思い知ることになった。更に父が新しい領主に対して何ひとつ物申さぬことも、大きな不満の種となった。
――もっと、自分や皆のためになってくれたら。
父への不満は、やがて新しい領主に対する不満に変わった。それを敏感に感じ取った領主が、オートを王立軍へ入れるよう父に命じたのだ。跡取りであるオートを軍人に据えることは、実質的にクラーゾ家を取り潰すことと同じだったが、父は素直に受け入れた。
父から士官学校へ行くよう告げられたときには、反論する気力もなかった。父はとことん平和主義で、自分たちが犠牲になることで平穏を保てるのなら、それ以上のことはしないと頑なに決めているようだった。
尊敬する部分も多かった父だけに、領主の言いなりになる姿を見るのが辛かった。これ以上共に過ごすより、離れて暮らしたほうがよい。オートは覚悟を決め、十三になる年に郷里を離れ、王立の士官学校へ入学した。郷里を離れる際、オートにとってただひとつ嬉しかったことは、元の領民たちが自分を温かく見送ってくれたことだった。
――若様は逞しく、喧嘩もお強いですから。必ずや、立派な士官になられましょう。
幼い頃から自分を子や孫、あるいは兄弟のように慕ってくれた領民たちは、自分がこの土地を離れることを惜しみ、馬車の窓から身を乗り出したオートの姿が見えなくなるまで手を振ってくれていた。
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