第4話 赤い蛇

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第4話 赤い蛇

 リックは柔らかな寝台の上で目を覚ました。隣に人の気配を感じ、ゆっくりそちらに首を向けると、心配そうに自分を見つめる母の姿があった気がした。 「母さん!」    リックは飛び起き、思わずマルグラントに縋ろうとして思い留まった。目の前にいる母は少女と言えるほど若く、すぐさま今までのことが夢ではないと悟ったからだ。 「大丈夫? あなた、空から落ちてきたのよ」 「うん、大丈夫……」 「少しも大丈夫そうに見えないわ。私はマルグラント。あなたのお名前は?」 「リック」 「そう……リックって言うの。不思議ね、あなたに初めて会った気がしないの。私の大切な人に似ているからかしら」  マルグラントがそっとリックの頬に手をあてると、リックの目から大粒の涙が零れた。少女の姿をしていても声や話し方は母そのもので、恋しさに胸が詰まる。一度零れてしまった涙はとめどなく溢れ、声を上げて泣きだしたリックの体をマルグラントが抱き締めた。  ひとしきり涙を流して落ち着いたリックは、マルグラントから体を離した。冷静になると急に恥ずかしい気持ちが込み上げ、それを隠すように少し笑った。 「僕も、あなたのことを知ってる。信じてもらえないかもしれないけど……」 「けど、何かしら。私、あなたに心あたりがあるのよ」  アロモに拒絶されたことを思い出すと、リックはなかなか口を開けなかった。すると、マルグラントの方が先に痺れを切らした。 「あなたが話さないのなら、私が言いましょうか。あなた、アロモの子供でしょう。そしてあなたのお母さんはきっと私よね、だってあなたの碧い目は、私と同じ色だもの!」 「うん、きっと、あなたが僕のお母さんに違いないよ!」  リックの泣き顔がみるみる晴れると、マルグラントも微笑んだ。 「会えて嬉しいわ。でも、どうしてあなたがここへ現れたのか教えてくれる?」  マルグラントがリックの頭を撫でるふりをして顔を寄せ、囁くように話すことに状況を察したリックは、声を潜めて訥々とつとつとこれまでのことを話した。マルグラントはリックの話を固唾をのんで聞いていたが、アロモがリックを疑ってかかっていたことを知ると、呆れたように首を振った。 「男の人って薄情ね。こんなにそっくりなのに、どうして自分の子供だって信じられないのかしら! でも、無事で安心したわ。アロモなら絶対に大丈夫だと思っていたけど、ちょっとは心配だったのよ」 「僕と会ったときは無事だったけど、緩やかに死につながっているも同じだって言ってた。滅びの印を結んで、塔ごと破壊する、とか」  リックには慣れない言葉ばかりで、説明するのも戸惑った。体に傷はなかったが、先ほど射られた衝撃も、まだ胸のあたりにずきずきと残っている。するとリックを気遣うように、マルグラントは努めて明るい声で話した。 「アロモならきっと大丈夫よ。そう簡単に死ぬような人じゃないわ。それに、アロモより先に私たちが挫けちゃ駄目よ」  それはマルグラントが自分のことを奮い立たせるための言葉でもあるようだった。リックは弱々しく笑って頷くと、小さな窓から外を見た。小さく切り取られた夜空には、丸く白い月が張りついていた。
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