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第10話 解かれた封印
アロモはヴィントに一杯の紅茶を要求すると、味わうことなく飲み干した。次いで、卓上に出されていた羽のようなメレンゲの焼菓子をさくさくと食べる。
「悠長に茶など啜っておる場合ではないと言ったのはお主ぞ」
「ずっと飲まず食わずだったのだ」
「本当に天空の砦に閉じ込められておったのか? マザレ様も大層案じておられたのだぞ」
「俺のことより、マグのことを探してくれればいいものを」
苛々した様子で答えるアロモにリックがマルグラントのことを話すと、アロモはとてもわかりやすく安心した顔をしたが、ヴィントから現状を聞くと、途端に険しい顔になった。
「なるほどな。城から兵士どもがこちらに向かってくるのを見たが、あれは業を煮やした王室からの使いか。もう間もなくここに来るぞ」
「兵士だと? 武器を持たぬ司書を相手に、力づくで禁書を奪うつもりか」
ベラは驚いた声を上げたが、ヴィントは目を細めただけだった。すると部屋の外から騒々しい足音が聞こえ、勢いよく扉が開いた。
「ヴィント様!」
扉も叩かずに入ってきたのは、青い顔をしたリーブロだった。その様子を見ても落ち着いて紅茶を啜るヴィントに、ヌーヴォが悲愴な顔を向けた。
「私たちはこちらへ来るのが遅かったようです。スクーロの石使いとして、マザレ様のお許しがなければ勝手なことはできません」
「まこと、もっと早く来るべきであった。いや、今からでもマザレ様の元に行き、応戦の許可を頂ければ……」
「お止めなさい。今出て行けば確実に警戒されます」
「ならばどうするつもりぞ。まさか、禁書を渡すのか?」
ヴィントはベラの質問に答えず、外を眺めた。徐々に近くなる馬の足音に、古書を干していた見習いたちが慌ただしくその場を片付けると、次々に塔へ逃げ込んでいた。
「確認したところ、向かってくるのは王立軍第三師団二番隊のようです」
「サメロ殿下の親衛隊ですね。隊長は確か、オート曹長でしたか」
ヴィントの口からオートの名前が出たことに、リックの心臓が跳ね上がった。
「待って下さい、やってくるのは本当に二番隊だけですか」
ヌーヴォが遠くを指さし、ベラたちは目を凝らした。まだ随分と距離があるものの、オート率いる隊の後ろからも、百人規模の兵士たちがやってきているようだった。
「お主、よくぞ見えたものよの」
「魂が見えるほどの目ですので」
ベラとヌーヴォが呑気な会話をする横で、アロモは思いつめたような顔をした。おもむろにリックへ向き合うと、ずいと右手を差し出した。
「石の貸し借りなど本来ならあり得ぬことだが、リック、そなたの石を貸せ。その石の力で、あ奴らを吹き飛ばしてやる。ベラとヌーヴォはマザレの許しなしに勝手はできないが、俺はもうスクーロと関係がないからな!」
言うが早いか、アロモは乱暴にリックの懐に手を入れる。
「嫌だ! 放して! オートさんは僕のこと助けてくれたんだよ!」
「知ったことか! 大人しくしろ!」
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