ビチグソ転生。17話

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「便器ちゃん便器ちゃん、起きてよ」  誰かが僕の体を揺すっていた。  でも、その声はよく知っている親しい人の声で、僕は安心していたのでそのままいつまでも揺すられていたいと思って目を開けるのを拒んだ。 「もう、いつまで寝てんだよ。この寝ぼすけは」 「そんなに怒らなくてもいいじゃない。きっと疲れてるんだよ。やっぱり前みたいにアムリタをちょっと分けてあげた方がいいんだよ」 「エメドラちゃん、すぐにそうやって便器ちゃんを過保護にするんだから」  ああ、この二人の声はとても安心するハーモニーだ。心が安らぐ。  僕の大切な人、大切なズルンズだ。 「ほら、こいつ顔がニヤニヤして笑ってる。絶対目が覚めてるんだ」 「あ、本当だ。もうっ便器ちゃんたら、えい」  ゴチンッ 「いてて!」  僕は柔らかい膝の上から硬い床の上に頭を投げ出されて、したたかに頭を打ち付けた。「いてててて、痛いゲロ痛いゲロ」 「あ、便器ちゃん目を覚ましたよ」  目の前に座った緑色の髪の少女が言った。エメドラちゃんだ。 「いいや、便器ちゃんはずっと目を覚ましていたのさ」  その隣に座っているショートカットのボーイッシュな少女が言った。ブラカスちゃんだ。 「酷いゲロ二人とも、僕は頭を打ってしまったじゃ無いゲロか」 「あはは、便器ちゃんいい気味だ」  目の前でブラカスちゃんがカラカラと笑っている。  エメドラちゃんはニッコリと微笑んでいた。  僕は二人の表情を見て心が和んだ。そして起き上がって辺りを見渡した。  僕たちの周りの空間は何か、金属質かガラスの様な半透明の素材で囲まれていて、その向こうには紫がかった素材で出来ている。壁はあちこちにビビが入っていて、その半透明の素材と同じ素材の床にはそこいら中に水たまりがあった。それから正面の壁には中央に大きな穴が穿かれていてそこから日差しが差し込み、その光が水たまりやガラスの壁に反射して空間全体をキラキラと輝かせていた。 「ここは、どこだゲロ・・・・・・?」 「アレだよ、あの、ダイベンガーって奴の中だよ」  ブラカスちゃんが答えた。 「私気絶してたんだってね。ブラカスちゃんから聞いたよ、二人でダイベンガーを操ってビッグマウス・サンドワームを格好よくやっつけたんだって。すごいなー、私いいところ全部見そびれちゃったみたい」エメドラちゃんが言った。 「そうゲロか、それじゃあ僕らは無事にあいつをやっつけられたゲロね」  エメドラちゃんの言葉に、僕はようやく今の状況が飲み込めた。  僕とブラカスちゃんは二人でダイベンガーを操縦して、どうやら無事に勝利を収めることが出来たらしい。その時のビッグマウス・サンドワームゾンビとの死闘を思い出そうとしたが目が覚めたばかりでまだ頭がハッキリしない。僕は思い出す助けを求めるようにブラカスちゃんの顔を見た。 「便器ちゃん、それよりもこっちに来て外を見てみろよ!」  しかしブラカスちゃんは僕が質問するよりも早く勢いよく立ち上がり、手をグイグイ強く引っ張って立ち上がらせた。 「なになに、何だゲロ?」  僕はブラカスちゃんに引っ張られるままに、空間に空いた大きな穴の方に引っ張られていった。 「うわあ、すごいゲロ!」  目の前には視界いっぱいに広がる巨大な湖が広がっていた。湖の水は日の光を浴びて金色に煌めいている。空気の澄み具合からそれは朝の日の光だと思われた。それから湖の周りは緑が一杯に敷き詰めてあって、しばらく砂漠の黄色い砂の色にならされていた僕の目には、それが一掃鮮烈な光景に映った。そんな風に青々とした芝生にポッカリと広がった金色に輝く湖が、僕の感嘆の声を上げさせたのだ。  ブラカスちゃんはいかにも「どうだすごいだろう」といった感じで、自信満々に胸を張って手を広げて景色を示したポーズをとっている。  僕はそんな目もくらむ光景に、しばらく見入って動けないでいた。 「ピチチチチ」  ふいに鳥の声が聞こえた。 「と、鳥が居るゲロ?」  砂漠のオアシスに鳥の声を聞きつけて、僕はようやく体を動かして辺りを見回した。  そして辺りを見回すと、そこがすでに砂漠の中では無く、閑散とした林の中だという事に気がついた。  木々は大規模な災害の痕なのか、根元から折れてしまった木の姿がいくつも見える。そして朝日の輝きの隙間から見える湖の底には、所々折れた倒木が敷き詰められているのも見えた。災害から時間が経っているのか、湖面の水は澄み切っていて、その倒れた木々の隙間を隠れ家にしている小魚の姿も見えた。  それから水平線まで続く湖の向こう側には、青空に溶け込むように紫色に染まった氷の山々が見える。 「へへ、ここがガンバリ湖だよ」  ブラカスちゃんが鼻を擦りながら言った。 「この辺はもう、砂漠は越えてるから木も生えてるし鳥だっている。でも、少し前に大きな嵐があったみたいで災害のせいで湖の形が変わっちゃってるみたいなんだ」 「本当ね、そんな大きな嵐なんていつの間にあったのかしら? こんなに大きな嵐だったら砂漠からでも分ったハズなのに誰も気がつかないなんて事、あるのかしら」  エメドラちゃんもやってきて僕らの会話に加わった。 「よし、それじゃあみんなで降りてって、湖の近くで調べてみようぜ」  ブラカスちゃんが言って、僕らはダイベンガーのコックピットに空いた穴から外に出ることにした。  コックピットの縁に立つとちょうどいい具合に直ぐそばに災害を逃れた枝の広がった木が立っている。僕はそれを足場にして地上に降りることにした。木はそれほど高くなかったが、ダイベンガーのコックピットの位置もそれほどの高さでは無かったから平気だった。 「便器ちゃん、早く降りてきなよ」 「あ、ズルいゲロ」  エメドラちゃんは魔法で、ブラカスちゃんは背中の羽をはばたかせて、サッサと地上に降りていた。僕は置いてけぼりにされそうに思って急いで木を折りようとして、足を滑らせて落ちてしまった。  ドシンッ 「ゲロゲロ、アイタタタゲロ」 「ほらほら、置いてっちゃうよ」 「待つゲロー」  地上に降りると、もういても立ってもいられ無くなった僕らは湖の近くまで走って行く。湖の水が見え始めると、僕は湖の水に頭から突っ込んだ。 「ゴクゴク、プハー生き返ったゲロ」 「本当、すごく美味しい水」  となりで手で掬ったガンバリ湖の水を飲んでいたエメドラちゃんも言った。 「アハハ、気持ちいいな」  ブラカスちゃんは頭から水に突っ込んで、ショートカットの髪の毛を掻き上げて言った。  僕らはずっと砂漠にいたせいで、じつは喉がカラカラだったのだ。 「あ、魚がいるぞ」 「こっちにもいるゲロ」  浅瀬には名前の分らない小さな魚があちこち泳いでいるのが見えた。倒れた倒木があちこちにあって、それが小さな魚たちの住処になっているみたいだった。ブラカスちゃんはきっと、それらの魚の全部の名前が言えるに違いないけど、僕は今はその、のどかな光景だけで満足だった。 「でも、近くで見ると本当にそこいら中が倒木だらけだね」  エメドラちゃんが辺りを見回して、おかわりの水をすくいながら言った。 「でもそのお陰で湖に沢山の倒木が出来て流れが変わっているんだ。それにあっちこちに新しい浅瀬が出来てるぞ。これならガンバリ湖の深いところに住んでいる危険な巨大魚だってこの辺までは近づいてこれないハズだよ」 「やった! それじゃあ私たち、早く水浴びしなきゃね」  そう言ったエメドラちゃんの姿はドロドロのビショビショの有様だった。いつもの白い服はすっかり元の色を失っていて、茶色いシミがいくつもついている。  それからブラカスちゃんの方も、いつものスッキリとした黒い服は、白っぽいホコリを吹いたようでゴワゴワした感じがしている。  だから水浴びが出来る事を想像した二人の表情は生き生きとして当然だった。汚れた二人の顔も、その中で輝く二つの目は湖面の光を受けていっそうキラキラと輝きを放って見えた。  二人の着ている服がどちらもボロボロで汚れているのは、ゴールドベル・スケープゴートの大量の血を頭から浴びた時に真っ赤に染まったからだった。その前から服は砂漠の砂と風にさらされて滅茶苦茶にされていたはずだし、それからダイベンガーの中では謎の液体で浸水して、そして僕らは溺れかけていたハズだった。 「あっそうだ、ダイベンガーは、ダイベンガーはどうなったんだゲロ!」  僕は自分の考えに初めてここまでの経緯の詳細を思い出し、自分たちの降りてきたダイベンガーを振り返った。 「あ!」  ダイベンガーは変わらず僕らのすぐ後ろにあった。膝をつき天を仰いだ姿勢で静かにたたずんでいた。僕たちが乗り込んだ時、ダイベンガーは砂に埋まっていたので僕はこの時初めて、ダイベンガーのその巨大な全容を目の当たりにしたことになる。  ダイベンガーは膝をついた姿勢でありながら、ガンバリ湖の周囲の樹木よりも遙かに上背があった。僕らが乗っていたコックピットの位置はダイベンガーのちょうど臍の辺りにあって、僕が降りるときに利用した木の高さはだいたい十メートルくらいだったから、それから計算すればダイベンガーの全長は約五十メートルくらいになるはずだ。それが膝をついて座っている訳で、その黒い塊がそこから放つ量感のオーラは凄まじいものがあった。 「これが、ダイベンガーか・・・・・・ゲロ」  僕はしばらくはその迫力に圧倒されて口もきけずただ呆けていた。しかし次第に僕の目は、ダイベンガーの体に刻まれたいくつもの傷跡にも気がついた。  ダイベンガーの漆黒だった装甲は赤くまだらに焼けただれていた。まるで頭頂部から体表に沿って電流が流されたように、その軌跡が足の先までのたうちながら続いている。それから、僕らが出てきたコックピットのあった部分には、大きな穴が空いたままになっていた。それは、蓋があってそう言う仕組みになっているとかそういった事では無くて、その部分が内側からゴッソリと抉りとられているような感じだった。 「ダイベンガー・・・・・・、いったい何があったんだゲロ」  僕はその痛々しい姿に、思わず息を飲んだ。 「ダイベンガーはね、ここまで私たちを運んできてくれたんだよ」  後ろからエメドラちゃんの声がした。 「私たち便器ちゃんが目を覚ます前に、すこし調べてみたんだよ。それでブラカスちゃんがこれは魔界の生き物だったって言うから、生き物なら私の癒やしの魔法が通じるかと思って試してみたんだけど・・・・・・」  エメドラちゃんはそこで言葉を詰まらせた。 「ご覧の通りさ、ダイベンガーは傷ついたまま回復しなかった。エメドラちゃんが言うにはダイベンガーは生き物としての時間が完全に止まっているから癒やしの魔法の効果はないっていう事らしい」  ブラカスちゃんがエメドラちゃんの代わりに説明した。 「ごめんね便器ちゃん、私じゃ力になれないみたいなんだ」 「そんな、エメドラちゃんが悪いわけじゃ無いだろう。謝ること無いじゃないか」 「でも便器ちゃん、便器ちゃんにとってダイベンガーってとっても大事なもの何だったんでしょう?」 「・・・・・・」  二人の話は僕の耳にちゃんと聞こえていたし理解も出来た。でも心配する二人の声に、僕は何も答える事が出来なかった。それは、今声を出してしまえばきっと悲しみを抑えられなくなって、僕はここで泣き出してしまうに違いない、そんな風に泣いているところを二人の友人に見られたくは無かった。  そうやって黙って涙をこらえながら傷ついたダイベンガーの姿を見つめていると、やがて僕の心の中にダイベンガーの雄々しいエンディングテーマが流れ始めた。  ダイベンガーのテーマ  歌 超熱ヒロノブ  エーメロ ダ、ダ、ダ、ダダダ、ダイベンガー (フー) ダ、ダ、ダ、ダダダ、ダイベンガー (フー) 伝説の無敵超人、ダイベンガーだぜ! うなれ、俊足のダイベンカッター とどけ、高速のダイベンキック 決めろ、必殺ダイベンスパーク ダ、ダ、ダ、ダダダ、ダイベンガー (フー) ダ、ダ、ダ、ダダダ、ダイベンガー (金属音ガキーン) (メロディアスなコーラス)  ビーメロ 漆黒の背中に背負ったその傷跡 あれが男の悲しみさ 手を振る君を、けして振り返りはしない すすめ、すすめダイベンガー 明日を切り開く、その目を開けろ もう一度、もう一度、チャンスをください もう失敗はしないから だからもう一回、やらせてみてください 今度はきっと、今度はきっと 君に届くはず だけどもう、君はいない チャンスはもう二度と無い だから振り返らない あー、もういい、もういい 分った、分った それ以上は聞きたくない それ以上言われたら オレは本当に切れちまうぜ! (テンポアップ) ジャカジャカジャカジャーン  エーメロ ダ、ダ、ダ、ダダダ、ダイベンガー (フー) ダ、ダ、ダ、ダダダ、ダイベンガー (フー) 伝説の無敵超人、ダイベンガーだぜ! うなれ、俊足のダイベンカッター とどけ、高速のダイベンキック 決めろ、必殺ダイベンスパーク ダ、ダ、ダ、ダダダ、ダイベンガー (フー) ダ、ダ、ダ、ダダダ、ダイベンガー (金属音ガキーン) (ダ、ダ、ダ、ダダダ、ダイベンガー、ダ、ダ、ダ、ダダダ、ダイベンガー・・・・・・) 「便器ちゃん大丈夫?」 「なあ便器ちゃん、その、まあ元気出しなよ」  心配して、エメドラちゃんとブラカスちゃんが話しかけてきた。 「・・・・・・いいんだ二人とも、ありがとうゲロ」  僕は振り返らず答えた。 「それにそれに、ダイベンガーは原作でもラストシーンはあんな風にボロボロだったゲロ。傷ついてボロボロで、でもラストシーンのケツベン創痍バージョンは人気があって何度もフィギア化もされてるし、それで世界を守ったんだゲロ。だから、あのダイベンガーはきっと満足しているはずなんだゲロ。だからいいんだゲロ」  実際にダイベンガーのケツベン創痍、それは続編の「大魔装ケツベンガー」へと続く布石としてデザインされていた。黒いメインカラーは変わらずに、まだらに赤いラインが入っていて、より有機的で禍々しい生物を意識したデザインになっていた。それは滅びの美学を体現し、ロボット物定番のダメージリペアバージョンという展開になるハズだった。 しかし実際にはダイベンガーの続編は制作されることは無かった。大魔装ケツベンガーは公式の設定資料上だけに存在する幻のロボットとなったのだ。  当時は、映画やアニメの企画段階からおもちゃ会社とのとタイアップが決まっていて、トリコロールカラーを主体とした派手で奇抜な、分りやすいロボットが台頭し始めた頃だった。だから全身黒ずくめで、地味でマニア向けを狙ったデザインのダイベンガーの続編では、スポンサーを引き留めることは出来なかったという訳だ。 「そうさ、ケツベンガーはスポンサーの都合でお蔵入りされた悲劇のロボットだゲロ。だからだから、だからこそ僕は、そんなケツベンガーに特別な愛情を感じていたのかも知れないゲロ。自分の境遇と通じる物があったから、お偉いさんの都合でいつでも都合良く首を切られる、それが正社員になれなかった奴の・・・・・・」 「便器ちゃん?」 「・・・・・・」  二人が僕を心配そうに見つめているのが分る。 「ごめん、僕はその、喋っているうちに感情が高まってきて、つい混乱しておかしな事を口走っていたみたいだゲロ。でも本当にもういいんだゲロ。ほら、こんなにもう、僕は元気ゲロ!」  僕は慌てて元気を取り繕って振り返った。 「便器ちゃん・・・・・・うん、便器ちゃんが平気なのは十分分ったよ。だからね、涙を拭いて」  エメドラちゃんはそう言って、自分のポシェットからハンカチを取り出した。白いハンカチにはピンクの花が刺繍してあった。 「・・・・・・うう、うわーん、うわーん。ダイベンガーはダイベンガーは、ダイベンガーは無敵の、無敵の、うわーん、うわーん」  僕は受け取ったハンカチを握りしめたまま泣き崩れた。エメドラちゃんの小さな手の平が頭の上に触れるのを感じた。  *  そうして僕はエメドラちゃんの腕の中でしばらく泣き続けていたが、しだいに気持ちも落ち着いたきた。そんな僕の様子を見計らってブラカスちゃんが言った。 「なあ、便器ちゃん。こんなのが慰めになるか分らないけれど・・・・・・その、エメドラちゃんが言ってたんだ、このダイベンガーは自然に回復するかも知れないって」 「?」  僕は顔を上げた。 「どういうことゲロ? 自然に回復するって、いったいどういうことゲロか」 「うんそれはね、私が回復の魔法を掛けたとき気がついた事なんだけど、ふだん魔法を掛けたときはその対象からは、何ていうかレスポンスっていうか反動みたいな、そういう抵抗があるんだけど、このダイベンガーに魔法を掛けたとき感じたの、ボヨンっていう感じ? うんそう、何て言うか説明しずらいんだけど、例えば『もう、間に合ってます十分です、お腹いっぱいです』みたいなメッセージかな。そのとき気がついたの、もしかしてダイベンガーはその、もしかしたらなんだけど、自力で、回復を始めているんじゃないかっていう事・・・・・・」 「え、自力で回復ゲロ!」  僕は驚いてダイベンガーを見上げた。しかしダイベンガーは相変わらずボロボロの姿で、回復の兆しを見つける事は出来ない。 「でも、ダイベンガーは生き物としての時間が止まっているって言ったじゃないゲロか。それなのに、ダイベンガーが自力で回復しているっていうのは、その」 「だからこう言う事さ。ダイベンガーは時間が動き出しさえすれば、本来の自分の力で自己修復できる、あのビッグマウス・サンドワームゾンビみたいにね。でも今は時間が止まっているからそれを確認することが出来ないだけなんじゃないかって事」  ブラカスちゃん話しをエメドラちゃんの話をまとめて説明した。 「じゃあじゃあ、ダイベンガーはまだ死んだ訳じゃないっていう事ゲロ? ダイベンガーはやっぱり、無敵の魔神だってっていう事ゲロ?」  僕の質問に二人は力強くうなずいた。 「そうさ、ダイベンガーは無敵だよ」 「すごいね、ダイベンガーって」  二人の返事を聞いて、僕の中に熱い物がこみ上げてきた。それは、何というか僕の不遇なヒーローが世の中に承認されたと瞬間とでも言おうか、ついでにそれを崇め奉っている自分自身までが認められたような、そんな気持ちがした。 「そうか、やっぱりダイベンガーは無敵だったんだゲロ。伝説の無敵超人、ダイベンガーだゲロ!」  もう一度見上げたダイベンガーは相変わらず傷だらけだったけれど、そこには無敵の魔神の威厳が、内側から溢れて出ているように感じられてきた。 「やっぱりダイベンガーはすごいんだゲロ、すごいんだゲロ!」  そして僕のそんな思いは次々と、止めどなく口から溢れ出てくるのだった。
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