第二部 炎の国の王カエン

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ハオランを後ろに下がらせ、洞窟の奥に向かって立った。両足を踏ん張り両手を前に突き出す。目を閉じて大きく息を吸い込むと、掌に神経を集中させる。しばらくするとバチバチと音が聞こえ始めた。俺はゆっくりと目を開ける。突き出した両手に黒い雷がまとわりつき爆ぜている。黒い雷はどんどんと膨れ上がり俺の身体と同じ大きさになった。俺は奥歯を噛みしめた。そして全身から炎を出すと、筋肉を硬直させ爆風で黒い雷をはじき飛ばした。その瞬間、洞窟の中の黒い影から霧が立ち昇り、一瞬でハオランを包んで洞窟の中に引きずり込んだ。俺が飛ばした黒い雷が霧に包まれたハオランにぶつかる。 「ハオランっ!」 「カエン…っ!」 慌てて洞窟の中に飛び込んだが、霧と共にハオランの姿が消えた。そして俺の名前を呼ぶハオランの声の残響だけが、洞窟の中にしばらく響いていた。 「そんな…ハオラン!俺が…殺した?」 俺は呆然とその場に立ち尽くした。 俺は上手く黒い雷の力を取り出せた。もう声も響かないし頭痛もない。俺の中に別の誰かが入ってるような気持ち悪さもない。すっきりとしたはずだ。だけど俺の胸は苦しく締めつけられて息ができない。この世界の人ではないけれど、奇跡的に出会い共に生きていきたいと思う人を見つけた。初めて父母以外の誰かを大切にしたいと思った。なのにその人を俺の手で殺してしまった…。 「いや…待て。あの黒い雷をくらっても消えたりはしない。父さまは瀕死の重症を負ったけど身体は残っていた。でも今、ハオランは消えたんだ…霧のように…。あの霧…もしやハオランを狙ってるという奴の魔法か?ならハオランは、そいつに連れ去られた?でもどこに…。あっ!まさか元の世界にかっ?」 俺は混乱した。俺の手で愛しいハオランを殺していないことに安堵した。だけどハオランを狙う奴らに連れ去られたならまずい。今度こそハオランが殺されてしまうかもしれない。でもどこを捜せばいい?この世界のどこかにいるなら、必ず見つけて助け出す。しかし元の世界に戻ってしまったなら、俺はどうすればいいかわからない。再び会えるのかすらわからない。……でも、会えなくてもハオランが無事で生きてくれるならそれでいい。俺のことを忘れないでくれたらそれでいい。だからハオラン、どうか無事でいてくれ! そう願うものの、やはりハオランに会いたいし心配で心が騒ぐ。 俺はひと通り洞窟の中を調べると、オルタナに飛び乗り森中を駆け回ってハオランを捜した。だけどどこにもハオランはいなかった。
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