第二部 炎の国の王カエン

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まだ陽が昇る前の明け方に、父さまがいる海辺の城に着いた。 いきなりの訪問に驚いた門番が、慌てて父さまを呼びに行く。 俺はハオランを連れて客室に行き、二人並んで椅子に座った。 「ねえ…カエン。勝手に入っていいの?」 「いいよ。だって俺はこの国の王様だよ」 「あ、そっか。カエンは威張ってないから王様だってこと忘れてしまう…」 「…それって、威厳がないってことか?」 「ちっ、違うよっ!親しみやすいって言うか…優しいって言うか…」 ハオランが顔の前で両手を振って慌てる様子が可笑しくて、俺はぷっと噴き出した。 「あははっ!わかってるよ。ハオランの反応が面白くてからかったんだ」 「カエン…ひどい…」 「ごめんな?そんな顔しないで」 「カエン、どうしたのだ?」 その時、扉が開くと同時に低い声がした。 俺とハオランが振り向くと、黒いガウンを羽織った父さまが立っていた。 俺はゆっくりと立ち上がり、父さまに頭を下げる。 ハオランも俺に続いて深く頭を下げた。 「父さま、突然来てごめん。…なんだか急に父さまに会いたくなって」 「そうか。おまえに甘えられるのは初めてな気がするな。おまえはいつもカナの方にばかり甘えていたからな」 「うん、そうだね」 「ところで彼は?」 父さまがハオランに視線を向ける。父さまの鋭い緑色の目に、ハオランの背筋が伸びた気がする。 俺はハオランの背中に手を添えると、ハオランを見て小さく頷いた。 「彼はハオランと言うんだ。父さま、彼も母さまと同じで、違う世界から来たんだよ」 「なに?だからこの世界では珍しい黒髪をしているのか。もしやカナと同じ世界から…」 「いや、違うみたいだよ。国の名前がカナがいたにほんと違う」 「そうか…。君はどういう所から来たのだ?」 ハオランが不安そうに俺を見る。 俺は微笑んで、もう一度頷いた。 「はじめまして。俺…私はハオランと言います。中華の国から来ました。なぜこの世界へ来たのかはわかりません…」 「ちゅうか…。カナがいた所とは違うのか…」 「はあ…。あの、先程から仰ってるカナとは…誰のことですか?俺と同じように違う世界からここへ来たんですか?」 「カエン、話してないのか?」 「うん、まあ…」 話そうと思いながら何となく話しそびれていたな…と、俺は頬を指で掻いた。 ハオランが俺と父さまを交互に見る。早く話してと言わんばかりの眼差しに、俺の頬が緩んだ。 「カナとは、俺の母さまだ。こことは違う世界の、にほんという国から来た」
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