第二部 炎の国の王カエン

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海辺の城に来てから三日間寝込んだ。 父さまは、色々なことが重なって俺が疲れていると思ったらしい。度々部屋に様子を見に来ては「ゆっくり休め」と言う。 「俺が不甲斐ないばかりに、おまえを早くに即位させてしまったからな。自分では気づいてなくても気が張っていたのだろう。それに若く元気でも立て続けに強い魔法を使えば疲れる。どうだ?しばらくここでゆっくりと養生しては」 「でも…あまり中央の城を留守にできないよ」 「ふむ。おまえが養生している間、俺が中央の城に戻ろう。それならば安心して休めるだろう?」 「え?父さまが?」 「ああ。それと直におまえがここにいると知ってリオが来るだろう。リオに身の回りの世話をさせるといい。気を使わなくて楽だろう」 「うん…そうだね。じゃあ養生させてもらうよ。ありがとう」 「礼を言うなら俺の方だ。おまえはよくやっている」 父さまが手を伸ばして、ベッドで寝ている俺の頭を撫でる。父さまに頭を撫でられて、ずっと続いている頭痛が少しだけ楽になったような気がした。 やはり家族は特別だ。傍にいてくれると心強い。ここにカナがいてくれたらもっと良かったな。カナに撫でられると、どんな苦痛も消し飛ぶんだ。 カナのことを考えたら会いたくなった。 「父さま、後で母さまの所に行ってもいい?」 「いいぞ。俺も一緒に行こう。しばらく留守にすることを伝えねばならない」 父さまが俺の黒髪に指を通しながら目を細める。 きっと今、父さまもカナのことを思い出してる。父さまの心の中にはいつも、愛するカナがいる。そして俺の中には…。 そう考えた時に、ハオランの顔が浮かんだ。 ハオランは今、俺のために消化の良い料理を作ってくれている。まだ信頼されてはいないから、見張りがついてるのだけど。 俺は父さまに支えてもらって起き上がると、ゆっくりとベッドから降りた。 寝ていても起きていても頻繁に頭の中であの嫌な声が響くから、ずっと頭が痛い。 しかし何もせずに休んだせいか、少しだけ気持ち悪さがマシになっている。 俺は父さまと共に母さまの石碑の前に来た。 そして俺がしばらくこの城にいることを伝え、父さまが留守にすることを伝えた。 母さまに報告をした後で、二人して石碑に触れた瞬間、海から柔らかい風が吹いて俺と父さまの髪を優しく揺らした。 俺は目を細めて心の中で母さまに願う。 カナ、父さまとこの国を守って。 俺に取り憑き蝕む邪な力。この力は誰にも迷惑をかけずに自分で何とかする。だから心配しないで。 一瞬、母さまの悲しむ顔が浮かんだが、俺は軽く頭を振って打ち消した。
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