第二部 炎の国の王カエン

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「カエン様っ、部屋で休んでるのかと思えば、こんな所で何をしてるんですかっ!」 「あ、リオ。何って鍛錬だよ」 「ゆっくり養生するためにこの城に残ったのでしょう?無理をしては駄目です!」 「おまえは相変わらず口うるさいなぁ。わかったよ、部屋に戻るから」 「そうしてください!後で食事と薬を持っていきますから」 「はいはい」 俺は剣を鞘に収めると、リオに軽く手を挙げて建物の中へと入った。 この城に来て十日が経った。何もしないでゆっくりと養生すれば少しはマシになるかと思ったが、俺の体調は逆にひどくなった。 中央の城で政務に励んでいる頃は、頭痛が続きはするが多少は気が紛れていた。だけど何もしないでいると頭の中の声に集中してしまい、頭が割れそうな痛みにおかしくなりそうだった。 なので少しでも気を紛らわせようと、中庭で剣を振っていたのだ。そこをリオに見咎められてしまった。 部屋に戻る途中の廊下で時々足を止めて頭を押さえ、壁に手をついて痛みをやり過ごす。リオや使用人の前では普通に振る舞うようにしているが、もう限界だ。 「まずい…とてもまずい。このままだと俺はどうなるんだ…?」 『俺の力を認めて素直に受け入れろ。そうすれば楽になる』 「うるさい!黙れ!おまえの言うことなど聞かない!」 『我慢をするな。辛くて仕方がないのだろう?』 「うるさいうるさいっ!」 「カエンっ!」 頭を押さえていた手で拳を作り、自分の頭を殴る。ゴツンと音がして痛かったが、それよりも頭痛と気持ち悪さの方が勝っている。もう一度頭を殴ろうとしたその時、ハオランが俺の腰に抱きついた。 「だめっ!そんなことしたらだめだっ!」 「ハオラン…」 俺は手を降ろして息を吐き、ハオランの背中を撫でる。 不思議なことに、どんなに激しい頭痛でも、ハオランに触れられているとかなり楽になるのだ。この城に来てから気づいたことだ。 ハオランが大きな目に涙を溜めて見上げてくる。 「カエン…また痛いのか?薬飲んだ?」 「…大丈夫。おさまったよ。薬は後でリオが持ってくるって」 「そう…。俺に何か出来ることないかな?」 「じゃあさ、一緒に食事をしよう。ハオランが傍にいると少し楽になるんだ」 「ほんと?それならずっと傍にいるよ!」 「ふふっ、そう言って今朝も俺が起きる前にもういなかったじゃないか」 「あ…ごめん。調べ物をしたくて…」 「謝らなくていいよ。わかってる。ハオランが俺のために薬を作ろうとしてくれてることは」 「うん…」 まだ俺に抱きついたままだったハオランは、そのまま俺の胸に額をコツンと当てた。そしてとても小さな声を出す。 「俺さ、薬草とかに興味があってさ…元いた世界でもいろいろと調べていたから自信があったんだ。カエンに効く薬を作れるって。この世界には俺のいた世界と似たような薬草があるし。でもカエンには効かない。リオさんには効いたのに…なんでだろう」 「うん、ハオランには感謝してるよ」 俺はハオランの頭に、ポンと軽く手を乗せた。 ハオランは本当に薬草に詳しく、簡単な頭痛腹痛胃痛筋肉痛に効く薬を作った。頭と胃が痛いというリオに飲んでもらったところ、すぐに回復した。鍛錬で身体が痛いという兵にも飲んでもらった時も、すぐに回復した。 だけどハオランの薬は、俺には全く効かなかった。
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