2960人が本棚に入れています
本棚に追加
/425ページ
一晩中翔び続け、遠くに見える丘の稜線から太陽が昇り始めた。
振り返ったハオランが、感嘆の声をあげる。
「わあ…綺麗だな」
「そうだな」
俺はそう頷きながら、ハオランを見ていた。
太陽に照らされて美しいと思った。俺の腕の中にある温もりを離したくないと思った。俺の感情が溢れて思わず強く抱きしめていたらしい。ハオランの声に我に返った。
「ちょ…っ、カエン!苦しいんだけどっ。どうしたの?」
「あ…ごめん。ハオランが落ちないかと心配で…」
「大丈夫だよ!そりゃあ空を翔ぶ馬には乗ったことないけど、国では普通に馬に乗ってたんだから」
「そっか」
「ところでさ、どこまで行くんだ?」
「ん、あそこの森だ」
俺は左に手を伸ばして大きな森を指す。木々がびっしりと密集している森の中は、陽が差す日中でも暗そうだ。
「あそこで何するの?」
「…ハオラン、勝手について来たんだから俺がすることに何も口を出すなよ?」
「う…わかった」
しゅん…と俯いたハオランの頭を撫でると、俺はオルタナの横腹を蹴った。
オルタナは力強く翼を動かし速度をあげる。滑降するように夜明けの空を横切り、あっという間に森の上空に着く。
俺は手綱を動かし、森の真ん中辺りの開けた場所に降下した。
ハオランを抱いてオルタナから降りる。
ハオランが地面に足が着くなり身体を揺らせたので、俺は慌てて支えた。
「大丈夫か?」
「うん…ちょっと目が回った…」
「だからついてくるなと言ったのに」
「でもっもう大丈夫!で、ここで何するの?」
「ハオラン、口を出すなと言ったぞ」
「う…」
少し口を尖らせて目を逸らせたハオランに笑って、俺は歩き出した。
オルタナにここにいるように言って進む俺の後を、ハオランが小走りに追いかけて来る。俺は気にせずに進み、大きな洞窟の前で足を止めた。
「ここ?」
ハオランが俺の隣に立ち洞窟の中を覗いている。奥が気になるのか一歩足を出したハオランの肩を、俺は慌てて掴んだ。
「なに?」
「あ、いや。この奥に獣がいるかもしれない。無闇に入ったらだめだ」
「あっ、そうだね」
素直に頷いて俺の背後に下がるハオラン。俺は気づかれないように安堵の息を吐いた。
この森に獣なんていない。ただ洞窟の中の真っ黒な影の中に、ハオランが足を踏み入れると消えてしまいそうに感じたんだ。
俺は既にハオランを手放せなくなっている。ハオランにはずっと傍にいて欲しい。願わくば俺の父さまと母さまのように愛し愛されたい。
その為には、俺の中に入っている悪しき力を無くさなければ。日々俺の中を蝕んでいくこの力を、俺の中から取り出したい。上手くいくかはわからないけど、その為にここに来たんだ。そして上手く力を俺の中から追い出したら、ハオランに告白しよう。ハオランの世界には戻らないで、この世界で俺と一緒にいて欲しいと希(こいねが)おう。
最初のコメントを投稿しよう!