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「カエン?」
ハオランが俺の袖を引いて、ぴょこんと顔を出す。
ハオランの些細な行動にいちいち俺の胸が締めつけられて、俺はもしかして重症なのかもしれないと理解した。
俺は身体を反転させるとハオランの肩に両手を置く。
「ハオラン、俺の身体の不調の原因を話すよ」
「うん…」
「ハオランがこの世界に来る直前、城を襲ってきた奴がいた。黒いマントを羽織った死神みたいな奴だった。そいつは元々俺の母さまを狙ってたらしいけど、母さまがいないと知って母さまの血を引く俺を狙ってきた。でも俺が返り討ちにして地下牢に閉じ込めた。しかし油断した隙に、そいつは俺の中に自分の力を移したんだ。全ての力を俺に移してそいつは死んだ。その力が黒い雷の魔法だ」
「なにそれ…」
「力と共に、どうやらそいつの想いも移されたらしい。俺が頭痛に苦しんでいたのは、頭の中で声がしていたからだ。この世界の王になれとうるさくて堪らない」
「カエン…」
「俺は世界の王になるつもりはない。今、世界は平和だ。そして俺は炎の国が大好きだ。炎の国の民の幸せを守りたい。俺の望みはそれだけだ。それと…」
言葉を切った俺の顔を、ハオランが首を傾けて見上げてくる。
俺は愛しさが溢れて思わず華奢な身体を抱きしめた。
「カエンっ?」
「…俺は、今からこの不要な力を俺の中から出してみる。上手く取り出せたら…本来の俺に戻れたら…話がある」
「うん…」
「そしてもし、上手く取り出せなくて俺が暴走したら、この森ごと俺を燃やして欲しい」
「は?はあっ?そんなことっ、出来ない!」
「おまえにしか頼めない。いや…ハオランの手でやって欲しい」
「嫌だっ!」
「ハオラン」
「ううっ…」
俺はハオランの耳に唇を寄せて、懇願するように名前を囁く。
ハオランはしばらく身体を震わせていたけど、俺の背中に手を回すと強くしがみついてきた。
「わかった、わかったよ!燃やしてやる!その代わりっ、俺も一緒だからな!カエンから離れないからな!」
「それは駄目だ!ハオランは逃げろ」
「なんでだよ。王様を焼き殺しちゃったら俺は今度こそ死刑だろ。俺は死ぬならカエンと一緒がいい」
「ハオラン…」
あまりにも可愛いことを言うもんだから、俺は更に強く抱きしめた。
ハオランが苦しそうに俺の背中を叩くけど、力を緩めてやることが出来ない。
「大丈夫だ。父さまの所へ行けばいい。守ってくれる」
「嫌だ。死刑が嫌だって言ってるんじゃない。カエンと離れるのが嫌なんだ!」
俺はこのままここでハオランを押し倒したい衝動にかられた。ハオランの全身を撫でて舐めて身体の奥を暴きたい欲求にかられた。しかしそれは、俺の中の悪しき力を出してから。ハオランにきちんと想いを告げてから。
俺は奥歯を噛みしめて何とか耐えると、ようやくハオランの身体を離した。
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