第二部 炎の国の王カエン

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ベッドに寝転び息を大きく吸う。寝転んだ拍子に微かにハオランの匂いが漂って胸が苦しくなる。 俺はいつの間に、こんなにもハオランのことを好きになっていたんだろう。もしかすると強烈な出会いをしたあの日から、惹かれていたのかもしれないな。 「ハオラン…無事でいてくれ」 切なる願いを込めて名前を呟く。 眠れないと思っていたが、ハオランの匂いに包まれて気持ちが落ち着いたせいか、または身体が疲れ切っていた為か、意識が途切れて気がつくと外が暗くなっていた。 呼びに来たシアンに連れられ父さまの部屋に行く。部屋の真ん中にある大きな机の上に、たくさんの料理が並べられている。 「カエン来たか。座りなさい」 「はい」 勧められるままに父さまの向かい側に座る。 直後に外から声がして、リオが入って来た。 父さまの後ろにシアンが立ち、俺の後ろにリオが立つ。 父さまと一緒に手を合わせ、フォークを手に食べ始める。 父さまは酒を一口飲んで俺に目を向けた。 「よく休めたか」 「うん、思いのほかよく眠れた」 「それならば良かった。若いとはいえ無理はよくない」 「そうだね。気をつけるよ」 「ああ」 緑色の目を細める父さまの顔を見る。父さまの短い髪型にもようやく慣れた。今の父さまをカナが見たら驚くだろうけど結局は「アルかっこいい!」って惚気けるんだろうな。それに少しずつ前の父さまに戻っている。よかった、少しでも元気になってくれて。 「なんだ、俺の顔をじっと見て」 「父さま、その髪型似合ってきたね」 「そうか。軽くていいのだがやはり首元が心もとない…」 「俺は首元がうっとうしい。やっぱり切ろうかな」 「まあおまえの自由だからいいが…。前にも言ったがカナは伸ばしてはくれなかったからな。だからおまえの伸ばした姿を見たい気もする」 「そう言われちゃうとなぁ。わかった、頑張って伸ばすよ」 「ふっ、そうしてくれ」 父さまが楽しそうに笑う。父さまの心の中にはいつもカナがいる。たった一人カナだけを愛した父さま。俺は二人を見ていて人はそんなにも誰かを想えるものなのか不思議だったけど、今ならわかる。俺もハオランだけを愛したい。 時おりシアンやリオとも楽しく話しながら食事を終えた。そして明日の夜明けとともにハオランの捜索に出ると話すと、父さまが深く頷いた。 「再び会えることを祈っている。リオ、おまえも一緒に行ってくれ」 「はっ、承知しました」 「リオって父さまには従順だよね」 「いやいや何を仰られる。カエン様にも充分従順ですよね?」 「そうかなぁ。シアンどう思う?」 「俺の躾が足りなかったようで申し訳ありません。リオ、明日はカエン様の手足となって働け。いいな?」 「わかってますよぅ」 背中を丸めるリオの姿がおかしくて、俺の気持ちが軽くなる。そして必ずハオランを探し出すという強い気持ちで父さまの部屋を後にした。
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