第二部 炎の国の王カエン

48/63
前へ
/425ページ
次へ
洞窟の中は人が一人歩けるくらいの広さだ。俺が先を歩きリオが後ろをついてくる。ほんの少し中に入っただけなのに、一気に冷えて寒いくらいだ。 「寒いですね…。真夏にここに来ればいいかもしれな……ひゃ!」 「なに?」 「すいませっ…、首に冷たい水が落ちてきてっ」 「リオ落ち着いて。外で待ってる?」 「嫌です」 「じゃあ静かにしてて」 「はい…」 この人、俺よりもずいぶんと歳上なんだけど…。リオのことは好きだけど、もう少し落ち着いてほしいな。 小さな洞窟だけど、かなり奥まで続いている。入口からの明かりが届かなくなるまで進んだ所で、壁の中に光るものを見つけた。 俺は手のひらの炎を近づけて凝視する。炎を映して赤っぽく見えるけど石のようだ。よく見ると、壁のあちらこちらに埋まっている。 「リオ、石だ。たくさんある」 「あ、ほんとですねぇ。どれも同じ石…なのかな?」 「どうだろ?ここからハオランの石を選ぼうと思う」 「いいんじゃないですか?」 長い間、誰にも見つからずにここにあったに違いない。大きな石がたくさんある。だけど俺は、親指大のきれいな楕円形の石を丁寧に掘り出して、上着のポケットに入れた。 「よし、採取できたし外に出よう」 「はい」 元来た道を戻り外に出る。出た瞬間、眩しくて思わず目を閉じた。 「うおっ、眩しっ」と言う声に振り返ると、リオが両手で目をおおっている。大げさだなと苦笑しながら洞窟の入口に結界を張った。 「暗い所から急に明るい場所に出ると目が痛いですね…と、何かされました?」 「入口に結界を張った。悪い人に利用されないように。本当に必要な人の手に渡るようにしたい」 「そうですね。後でこの森を所有する領主に話をしておきましょう」 「うん、頼むよ」 リオに頷き再び川に行く。そしてポケットから石を取り出してきれいに洗う。洗った石を陽ににかざして見ると、それはとても美しい緑色の石だった。 「濃く深い緑…美しいですね。カエン様の瞳と同じだ」 「うん。だからこれがいいと思った」 「ハオランも喜びますよ」 「だといいけど」 「というか、カエン様からなら何でも喜びますよ。カナデもそうでしたからね」 「へぇ。父さまの方が喜んでそうだけど」 「まあ…。アルファム様はほら…カナデの全ては俺のもの、みたいな感じでしたから」 「ああ、なんとなくわかる」 「でしょう?」 俺とリオは顔を見合せて笑った。 でも今の会話って、父さまが聞いたら俺は大丈夫だけどリオは怒られるよ? つい心の中で思ったことを口に出して言ってしまった。すると途端にリオが、真っ青な顔になって震え出したから、俺はますます声を出して笑った。ハオランが消えてから、初めて声を出して笑った。沈んでいた気持ちが楽になって、ハオランはきっと戻ってくると前向きな気持ちが強くなった。
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2969人が本棚に入れています
本棚に追加