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少し湿っぽくなった空気を変えるように、俺はアレン王子に明るく尋ねる。
「今回は遊びに来たのだろう?いろんな所に連れて行ってやるよ。あと歳が近いんだし敬語じゃなく普通に話してほしい」
「わかり…わかった。ありがとう…」
アレン王子が返事をしながら後ろにチラリと目を向ける。
ナジャが頷いて前に出てきた。
「なに?なにかあるの?」
「はい…実は水の国で捕らえてる男がいるのですが」
「うん、それで?」
「先日、その男がアレン王子を暗殺しようと襲ってきたのです。もちろんアレン王子には一切手を触れさせずに捕らえましたが」
「えっ、それは恐ろしい。アレン王子、大丈夫だった?」
「はい…あっ、うん。王族として少なからずそういう目に合ったこともあるから、自分で防げるように鍛えてるし」
「それはよかった」
笑って答えたアレン王子を見て、俺はホッと息を吐く。
「その男ですが」とナジャが続ける。
「詳しく取り調べをしたところ、数ヶ月前に王都の中で盗みをはたらいていたようです。その時にレオナルト王の遠縁にあたる貴族の男の部下に捕まったそうです。犯罪者を捕まえればすぐに警備の責任者に知らせなければならないのですが、貴族の男は知らせませんでした」
「なぜ?」
「その男、あやしい魔法を使うのです。あれを魔法というのかどうかわかりませんが…。この世界では知られていない魔法です。だからコマとして使えると思ったのでしょう」
眉間に深くシワを寄せるナジャを、俺は注意深く見つめる。
その男の話を、なぜ俺にするのだろう。
俺の代わりにリオが疑問を口にした。
「世の中にはあやしい人物があちらこちらにいるものです。それでその男と炎の国と何か関係があるのでしょうか?」
「はい…たぶん」
ナジャがあやふやな返事をする。
世界で知られていない魔法を使うあやしい男など炎の国にはいないと思うのだが…。我が国と関係があるということは、もしかして炎の国の出身なのだろうか?
俺の不安を読んだのだろう。ナジャが「違いますよ」と微笑んだ。
「炎の国の出身者ではないです。この話をしたのは、カエン王、もしくはアルファム様に相談をしたかったからです」
「俺と父さまに?」
「はい。その男ですが、髪が黒いのです。まあカエン王やカナデ様みたいに漆黒ではなく、ところどころ茶色い部分があるのですが。しかしこの世界にはない、ほぼ黒といっていい髪なのです」
「黒い髪の…男…?」
「カエン様…っ」
俺は驚いた。一瞬ハオランかと思った。だがハオランは俺と同じで漆黒の髪だ。茶色い部分などない。では誰だ?母さまやハオラン以外にも、違う世界から来た人物がいるのか?
リオもハオランだと思ったのだろう。
俺はリオに向かって「彼ではない」と首を振った。
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