第二部 炎の国の王カエン

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ハオランが炎の国の街を燃やしたのは、追いかけてきた男からの攻撃を防ぐためだった。確かその男は、毒を含んだ霧を使うと話していた。 ナジャから聞いた男が使うあやしい魔法とは、その毒霧のことじゃないだろうか。 リオが「カエン様?」と黙り込んだ俺の顔を覗く。 俺が顔を上げると、皆がこちらを注意深く見ていた。 「とりあえず父さまにも来てもらおう。リオ、呼んできてくれる?」 「わかりました。シアン様も呼びますか?」 「そうだな。頼むよ」 「はい」 リオがアレン王子に頭を下げて出ていく。 リオが父さまとシアンを呼びに行ってる間に、俺はハオランのことを、アレン王子とナジャに話した。 しばらくしてリオが戻ってきた。父さまとシアンと共に。 父さまが部屋に入るとすぐに、アレン王子が前に出て挨拶をする。 「お久しぶりです。お元気そうでよかったです。父上もアルファム様に会いたいと言って、炎の国に来たがっていました」 「おお、アレン王子、ずいぶんと立派になられて。レオナルト王に似ずきれいで優しい顔をしている」 「アルファム様」 父さまと水の国の王は仲が良いと思ってるのだけど、時おりこんな風に父さまは嫌味を言う。それを傍にいるシアンかリオが、いつもたしなめているのだ。 シアンが父さまの少し後ろからアレン王子に頭を下げた。 「アレン王子、ようこそ来てくださいました。この城にいる間、困ったことがございましたら俺かこちらのリオに命じてください。今みたいにアルファム様がレオナルト王の悪口を言った時も仰ってください」 「悪口ではない。事実だ」 「アルファム様」 二度もシアンに睨まれて、父さまが顔を背ける。レオナルト王が母さまをさらおうとしたことや、炎の国に来るたびに口説いていたことを、いつまでも根に持っているのだ。 俺は小さく息を吐いて、父さまの肩を叩く。 「父さま、母さまにしつこい男は嫌いだって怒られるよ?それに母さまのことを懐かしく語れるのは、水の国の王と日の国の王だけなのだから、仲良くしてよ」 「…仲は悪くない。わかったよ、カエン。アレン王子にも嫌な思いをさせた。申しわけない」 謝る父さまにアレン王子が勢いよく首を横にふる。 「大丈夫です!父上もアルファム前王のことをよく話していますからっ」 「…それは悪口だな?」 「…え?あ…う…」 「我が国の王も文句を言えたものではありません。王に代わって謝罪します。アルファム様、申しわけありません」 口ごもってしまったアレン王子の代わりに、ナジャが父さまの前に来て頭を下げる。 父さまもレオナルト王も似たもの同士で大人げないな…と俺は更に大きな息を吐き出した。
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