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「━━あれ、まだ帰ってきてねーのか」
閑散とした住宅街の一角に建つ赤屋根の家。
そこが夜鷹の家だった。
いつもなら電気が点いていて、夜鷹を温かく迎えるのだが、カーテンを閉め切っていて、中の様子が全く窺えなかった。寂しい雰囲気を漂わせていた。
いつも見る赤屋根も今日はどこか不気味に感じて、夜鷹は少し入るのを躊躇った。
「入るぞ」
恐る恐るドアの鍵を開け、鉄のドアをゆっくりと開ける。
冷えた空気が漂っていて、当然、廊下の電気は消えている。
奥のリビングからは、テレビの雑音が響いていて、床には屋根と同じような赤い色の何かが飛び散っていた。
「……どういう事だよ」
時間はまだ六時、しかし家に入った瞬間、まるで深夜の様な不気味さが夜鷹を襲った。
明かりも差し込んでおらず、カーテンも閉め切っている。
外から中の様子が窺えなかったのはその為だった。
「……只事じゃ、ねえな」
電気を点け、廊下を改めて見渡す。
赤い付着物以外には何も付いていない。
「……これ、血だよな? ……いや、まさか」
夜鷹は何故かポジティブになっていた。
いや、ポジティブにならざるを得なかった。
リビングに近付くにつれ雑音が大きくなっていく。
震える手を押さえながらドアノブに手をかける。
冷たく、無機質なドアノブに、夜鷹は若干の恐怖を覚えてドアを開いた。
「う……え……あ? んだよ……なんだよこれ……?」
その場にヘタレ込んで嘔吐する。
鼻を刺激する腐臭、あちこちに散らばる臓物、バラバラにされた家族達。
「あれ、来ちゃったの? ごめんごめん。まだ料理終わってなくてさ〜」
キッチンの方から楽観的な声が聞こえ、夜鷹はすぐにその方向に首を向けた。
白髪長髪、目は片方白く、黒いフードを着ていた。
「よし、できたよ。“生首の丸焼き”……焼いただけだけど」
茶色く焦げた妹と母親と父親の生首。
どれも苦しそうな表情をしていて、とても食欲を唆られる料理ではなかった。
「冗談だよ。そんな怒んないでよ怖いなあ。すぐに君も殺……おっと危ない」
周りに突風が吹き、生首が皿から落ちる。
夜鷹の本気のパンチだ。
「……って〜!! ホントに無能力者かよ!! 常人離れしすぎじゃないかな身体能力」
夜鷹は絶望した表情で泣いた。
自分の渾身のパンチ、それすら押さえられたのだ。
「異能が覚醒するとさ、身体能力とかその他諸々の能力も上がるんだよね。君は強いよ、認めたくないけど。だけど異能が覚醒している僕の相手じゃない。君の異能が覚醒したとしても、勝てないけど」
異能、その存在は夜鷹も知っていた。
夜鷹は異能を避けて喧嘩をしていた。
故に知らなかったのだ、その圧倒的強さを。
「君は馬鹿だから死ぬんだよ。家が異常な事になってたってのは、リビング入る前にも分かったよ……ね!!?」
突風、そんなレベルではなかった。
暴風、いや、それよりも遥かに大きな威力。
「まさか……覚醒したの? 異能が」
異能が覚醒する条件は未だ不明。
しかし、とある一説として、『殺意がピークに達した時』に目覚めるというモノがある。
「ははっ……すごい威力だ……鼻血が出たよ。雑魚犯罪者なら一発で死ぬんじゃないの?」
その男は怖がるどころか、むしろ楽しんでいた。
夜鷹のパンチのダメージ、殆ど受けていないのだ。
「俺の仲間になるんだったら見逃してやるよ。どうする?」
「断る」
「んじゃ死ね」
一瞬で距離を詰め、夜鷹の心臓目掛けて刃物を振る。
瞬間、何者かが間に割り込み、刃物を跳ね返す。
「危ないもん使わないでよ。てか危なかったなー。間一髪だったね?」
榊龍禅と黒川京介だ。
「あ、こいつですよ、俺の感じた気配……只者じゃない」
男は舌打ちをして、逃げるように走った。
「あ、おい、待て!!」
追いかけようとする黒川を押さえて榊は夜鷹に笑顔で話しかける。
「追いかけたところで俺たちじゃあ勝てないよ。とこれで君、さっき覚醒したばっかだね。……異能は……ははっ……あははっ!! 面白い……身体能力操作……か。君、元の身体能力も高いでしょ? 体見た感じ。元の身体能力に更に上乗せされ、自分の異能も身体能力操作……奇跡すぎるね」
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