第一章 鬼々森然

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第一章 鬼々森然

午後二時、空は青く、イマイチ任務の気分にはなれなかった。 現在は立ち入り禁止のビジネスホテル、犯人は二階に立て籠っている。 テープを潜り、ホテルの中へと入る。 「……? 涼しいな」 今は七月、夏真っ只中だ。 それなのに中は、クーラーで冷えきった部屋のように涼しかったのだ。 その原因が中にいる異犯者である事は夜鷹でも分かった。 電気は消えている、クーラーが点いている筈もない。 「二階……多分気付いてんな」 鋭い視線を夜鷹は感じた。 どうやらそう遠くない距離、恐らく二階階段にいる。 気配がどんどん近付く。 寒さが最骨頂に達した時、その男は現れた。 ファーフードのブラックコートを着込んだ夏に似つかない男。 マスクを付けていて目はツリ目、間違いなく渡された紙に書かれていた目撃者情報と一致していた。 「誰だよテメェ。あ〜あ〜、合殺かよめんどくせぇな……殺してやるよ」 手が一瞬で棘状の氷に覆われ、ニタリと笑う。 寒さの正体は氷だったのだ。 「氷の異能か? どう対策練りゃあいいんだ?」 「なにボサっとしている?」 “氷斂(ひょうれん)” 氷の棘が伸び、恐ろしい速度で夜鷹に当てる。 「ふぅ……ってえな」 「な!?」 氷の棘は粉々になり、夜鷹の前に落ちる。 無傷、圧倒的な防御力で氷を防いだのだ。 「聞いたことあるな。個人差があるが異能は鍛えれば鍛えるほど強くなる……お前、あんま鍛えてねえだろ」 男の沸点は頂点に達し、夜鷹に怒鳴り散らした。 大量の氷が周囲を覆い、男の気配が増していく。 “氷結領域(フリーズフィールド)” 氷室響也、連続凍死事件の犯人。 その男の必殺技、氷結領域。 その領域は環境要因による自身の異能の質向上、氷の無制限使用だ。 氷室自身、合法殺人者と戦うのは初めてだった為、この技を使うのは実戦では初めてだった。 「お前はここで死ぬ」 「ただの氷の空間だろ? よくこんな技作……あ!?」 “氷斂” さっきと変わらない技、しかし威力が桁違いだった。 さっきまで傷一つ与えなかった体に血を流させたのだ。 「気合い入れなきゃ貫通してたかな」 しかし夜鷹は落ち着いていた。 あまりに危険な状況、氷斂以上の技がばんばん出せるこの領域で、冷静さを保てているのだ。 「怯えて声も出ねえかー!? トドメ刺してやるよ!!」 “吹雪裂(ふぶきざ)き” 当たれば一瞬で凍死する様な極寒の風、何かが起こらなければ間違いなくここで夜鷹は死ぬ。 何かが起こらなければ。 「……やっと異能を使った技が思いついた、名前何にすっかなー……うん、そうだ」 赤いオーラが夜鷹の右手を包む。 その周りの空間が歪み、そして妙な轟音が鳴り響いていた。 「覇壊拳(はかいけん)ン!!」 ただの突きによる風、しかしその風が吹雪の方向を変えたのだ。 あまりの驚きに、氷室は倒れ込み、そのまま領域も解除された。 「はぁ? お……俺、ここで死ぬのかよ……嘘だろぉ!?」 「……楽に逝かせてやるから、大丈夫だ」 覇壊拳はあまりの火力に並の能力者なら痛みを感じる前に死に至る。 それは氷室も分かっていたし、夜鷹は言わずもがなだ。 「い……嫌だ……嫌だああああ ああ!!」 “覇壊拳” トマトを潰す様な音を立て、頭が潰れる。 夜鷹はそっと手を合わせ、その場を去った。 「へー……面白い……ちょっと行くかな」
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