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夜鷹は頭を整理させながら窓を飛び出す。
ホテル内で戦ったら迷惑がかかるからだ。
しかし、夜鷹は飛行能力を持っていない。
外に出ればそのまま落っこちるだけだ。
「馬鹿だね、自ら外に出るなんて」
夜鷹は落下しながら村野を睨む。
瞬間、体を勢いよく回転させ、ホテルの壁に足を当てる。
「経験の差を舐めんなよ」
“蝗飛翅跳”
足にオーラを全て集中させジャンプする単純な技。
その飛距離は本気を出せば東京タワーをも越すだろう。
夜鷹は屋上に着地し、足のオーラを全身に戻す。
数秒経ち、村野も屋上に到達する。
「どうしたんだよ村野!? ……一旦頭冷やせ!!」
「黙れ!! お前の意見なんて聞いていない!! ……命の価値を履き違えるな!!」
“龍突”
龍は夜鷹に向かって高速で突進する。
夜鷹はそれを避けずに受け、ホテルから吹き飛ばされる。
想像以上の高威力、夜鷹は吐血した。
「俺に話してみろ村野!! 何か気に障る事があったなら謝る!!」
吹き飛んだ夜鷹を追いかける村野に話しかける。
「……馬鹿にしているのか!? お前が……お前がやったんじゃないか!!」
夜鷹は真剣な表情になり、龍を掴みその背に乗る。
恐ろしく速いスピードだというのに空中でそれをこなすのは中々至難な所業だった。
「俺がやった? ……落ち着いて話してくれ村野」
村野の唇は震え、涙が目にたまる。
瞬間、優子との思い出が走馬灯の様に駆け巡り、村野は号泣した。
夜鷹は眉をしかめながら口を閉じた。
どれほど辛いことがあったのかは夜鷹には想像できない。
だから夜鷹は黙った、口を出しては行けないと判断したのだ。
「夜鷹君……君が殺したんじゃないのか? ……優子を」
「優子が……殺されたのか? ……俺じゃないよ村野。俺は合法殺人者なんだ。罪のない人間は殺さない」
夜鷹は村野に優しくそう言った。
村野の涙は枯れ、夜鷹の顔をじっと見つめる。
龍はとある公園に降りた瞬間、消えるように塵になった。
雨はすっかり止んでいて、雨粒が鉄棒から滴る音が静かな空間にはよく響いた。
「じゃあさ夜鷹君……僕は信じていた人に裏切られたという事かい? もう、誰も信じる事なんてできない」
夜鷹は村野の頭をポンと叩く。
怒りを込めてではない。
ただそっと、優しく。
「村野を傷付けるヤツは俺が許さねえ。……そんなホラ吹いたヤツをぶっ飛ばしてやる。安心しろ、お前はもう傷つかない」
夜鷹は爽やかな笑顔で笑う。
暗い空間でも眩しいくらいに、その笑顔は輝いていた。
しかし、平和な時間は長く続かない。
「あー……お前は無能だな村野。買い被っていたようだ。夜鷹朝陽に微量なダメージしか与えられないとは」
骨を振りましながら不死川は二人に近付く。
夜鷹は村野を庇うようにオーラを纏う。
不死川は鼻歌を歌いながらニヤリと笑う。
瞬間、目の前から姿が消え、不死川は後ろに立つ。
激しい悪寒、それは花道と対峙した時と同じ寒さだった。
震える村野の肩に不死川はゆっくり触れる。
更に震えは増し、村野は涙目になる。
「無能はいらないんだよ。お前、自分の事そこそこ頭いいと思ってるクチだろ。熟慮は時に短慮以上の愚行を招く。お前はその典型」
村野の体はどんどん骨で侵食されていく。
瞬間、夜鷹は足にオーラを纏い動き出したが、もう、遅かった。
「お前が頭悪いと思ってるヤツと、同じくらいには馬鹿だから。だからお前は殺される」
“腐蝕”
村野の体はもう原型をとどめていなかった。
全身を骨で覆われ、無惨に地面に伏す。
夜鷹は思考が真っ白になった。
『村野を傷付けるヤツは俺が許さねえ。……そんなホラ吹いたヤツをぶっ飛ばしてやる。安心しろ、お前はもう傷つかない』
頭に言葉が過る。
瞬間、妙な罪悪感と喪失感に襲われて夜鷹はのたうち回る。
「薄っぺらい友情を引き裂かれた気分はどう……」
夜鷹は赤いオーラを纏った拳を怒りを込めて顔を殴る。
その威力は凄まじく、ゆうに閃光迅雷を超えていた。
「がはっ……ごほっ……うげぇ……もう二発食らったら……確実に死ぬな」
不死川はよろよろと立ち上がり、臨戦態勢になる。
「……まともな死に方しねえと思えよ……もうお前は許さない」
「どっちのセリフだよ、脳筋野郎」
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