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その部屋は記録によると300年前にはすでに存在したという。 教団の総本山であるここパタカの更に中心部、一部の人間にしか入れないところに部屋がある。 その部屋は普通の部屋ではない。 表向きはご神体を安置しているといわれている。 ご神体。間違いではない。 ただ、ここで厳重に管理されているのはご神体ではない。 一人の人間だ。 生き神として扱われるその“少年”は教団に残されている記録では200年ほど前にこの部屋に閉じ込められたらしい。 普通の人間が200年も生きられる筈がない。 だから、この少年は生き神なのだ。 数年に一度教徒の前に現われ、神の言葉を告げる少年。 彼は特別ではない。 見た目はこの世界では珍しい金色の髪の毛と金色の瞳だ。 だが、それだけだ。 それだけなのだ。 “特別”なのは部屋の方なのだ。 この部屋は恐らく時間の流れが外とは違うといわれている。 生き神様を守るために科学的な調査は入れていないので恐らく。 金色の少年にとっては200年もほんのわずかな時間。 食糧と本を渡して部屋でしばらく過ごしてもらってたまに部屋から連れ出して一言二言しゃべってもらう。 何の問題も無い、簡単なことだと周りの大人は皆言っていた。 そんな筈無いのに。 *** リオが初めて生き神様と会ったのは6歳の時だった。 教団の幹部である父親に連れられて、あの部屋に行ったのだ。 今にして思うと、父親は生き神を使って信徒を増やす工作の後継者にリオをと考えていたのかもしれない。 事実、リオは幼いころから神童と呼ばれていた。 勉強はリオにとって難しいものではなかった。だが、教団の教義を延々と聞かされるのにも宗教家としてのあれこれを聞かされるのにも辟易としていた。 ここではない、どこかに行ってしまいたかった。 そんな時だった。生き神と呼ばれる少年タパラに出会ったのは。 古い古い、黒ずんだ石壁はその一角だけ周りと完全に素材が違っていて新しい(といっても10年は経ってそうな品物だったが)木でできた扉だけが異様にういてリオの目に映った。 その扉は頑丈そうな南京錠で鍵がされていた。 ガチャン 鍵が開く音が薄暗い廊下に響く。 ドアが開きリオの目には思ったよりも新しく綺麗に見える室内が映った。 建物の中心部にあるせいだろう四方を壁で囲まれて明かりが外からは入らない以外は調度品のセンスが古臭い以外は普通の部屋に見えた。 その部屋の奥に置かれた机と椅子。その椅子に一人ポツンと座っていたのがタパラだった。 まるで本物の金を細く細く糸にした様な髪の毛がまず目に入った。 下を向いていた顔がリオ達の方を向いて力なく笑う。 その瞳は見たことがない様な金色をしていたがリオにはそれよりも、その笑顔の儚さが脳裏に焼き付いた。 「今回は二日でした。」 何のことだかわからないリオは首を傾げた。 大人達は何故だか一歩も部屋に入ろうとはしなかった。 返事を期待していないのか、本を閉じるとタパラはこちらに向かってきた。 父の横に立つ男を見ると 「皺が増えましたね。5年ってところですか?」 そう聞いた。 話しかけられた男はギクリと固まったが、何も答えなかった。 端から答えは期待していなかったようで、タパラは「行きましょうか?」と声をかけた。 前を進むタパラと数人の大人達を見る。 横を歩く父に「あの人は誰?」と聞いた。 宗教都市であるパタカは主にチュリヤ教徒で占められていたがあんな人物を見たことは一度もなかった。 「あの人は神様の使いだよ。」 「なんであんなところにいたの?」 リオが聞くと父は口をつぐんで少し逡巡した後、本当はもう少し大きくなってから伝えるんだけどと前置きをしてからリオに言った。 「あの部屋は他の場所と時間の流れが違うんだ。 ほら2日とか5年とかって彼が言っていただろう。 彼にとっての2日が我々にとっての5年ということだ。」 父は誇らしげだった。 何故それが誇らしげなのかは分からなかった。 父の話が本当ならば彼は5年ほどあの部屋に居たということだろうか? ゾクリとリオの背中を嫌な寒気が通った気がした。
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