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教団の来客用の部屋に通されたタパラはきょろきょろとあたりを見回すと、ふうと息を吐いた。
父がソファーに座るようにとタパラを促した。
「それでは我々は儀式の準備がありますので。」
「リオ、話し相手になってあげなさい。」
父親に言われリオは「はい」と返事をした。
大人達は慌ただしく部屋を出ていった。
タパラの向かいのソファーに座りリオはぎこちなく笑いながら挨拶をした。
タパラは一言だけ自分の名前を返しただけだった。
「タパラ?」
「私の名前だ。」
今はあまり聞かない名前に、名前の事を言っていると理解できずリオが首をかしげるとタパラは睨みつけるようにしながら言った。
「リオ、初めまして。」
「別に無理をして仲良くしなくてもいいのだぞ?」
リオは何故そんな風に言われるのかが分からなかった。
「何のことですか?」
リオが聞くとタパラは自嘲気味に答える。
「こんな100年以上も前の人間と話すのは気味が悪かろう。無理する必要はない。」
きっぱりと言われた言葉にリオはカチンときて言い返した。
「別に気持ち悪くなんかない!」
「では何故、私の事を聞いて表情を歪めたのだ。」
「あれは、あの部屋が嫌だっただけです。」
リオは言った。
「あんな、部屋に頼っている大人達も、いつ効力が消えるかわからない部屋に閉じ込められることを考えられないこともただただ恐ろしかった。それだけだ。」
自分の正直な気持ちを、父を否定することに若干の戸惑いがあり、リオはいつもより早口だった。
「そうか、恐ろしいよな。」
どこかほっとするように言われ、共感してもらったと思いリオは食い入るようにタパラを見た。
そして、その瞳から涙が溢れていることに気が付き驚いた。
「なんで泣くんですか?あの部屋で嫌な思いでもしたんですか?」
おろおろとリオが尋ねると袖口で涙をぬぐいながらタパラはフルフルと首を振った。
「違う。違う。」
うわ言のように繰り返すタパラが心配で駆け寄ってそっと背中をさすった。
思ったより細い体を撫でると最初はビクリと体を固くしたが、徐々に落ち着いていく。
「……初めてなんだ。私の気持ちをわかってもらえたのが。」
しばらくして泣き止んだタパラは赤くなった目で言った。
「いつもあの部屋に戻される瞬間は恐ろしくて恐ろしくて、もうあの扉はあかないんじゃなかろうか?開いてももう言葉も通じないくらい先の世界になってしまってるのでは。そんなことばかり考えているよ。」
ぽつりぽつりと気持ちを吐露するタパラの姿を見てリオは胸がギュッと締め付けられた気がした。
思えば恐らくあの時、リオはタパラに恋をしたのだろう。
「まだ、あの部屋とこことの往復を始めてたいした期間は経って居ない筈なのに、それがもはや永遠に感じるんだよ。
早く気が狂ってしまえとそんなことばかり考える。」
そこまで言ってからタパラは子どもにする話じゃないなと自嘲気味に付け加えた。
「おれは子供じゃない!」
リオはイライラとした気持ちのまま叫んだ。
「なんで、なんで逃げないんだよ。
逃げればいいだろう!!」
「どこににげろと?
もう私は200年外の世界を知らなんだ。生きていけるはずが無かろう。
それにこの髪と瞳だ目立ってしょうがない。
私はここでしか生きられないのだよ。」
諦めた様に笑うタパラを見てリオはある一つの決意をした。
それほどまでにタパラの表情は全てを諦めているもので、このままでは生きること、最後の一つまで諦めてしまいそうでそれがどうしても許せなかった。
「なら、おれの為に生きてください。
今は無理でもいつかいつか必ず助けるから。」
リオはタパラの手を握りしめ懇願するように言った。
それは祈りにも似た願いであり、リオの決意だった。
「必ず助け出すから、二人で逃げよう。」
リオの言葉を本気にしたのかしなかったのか、今になってはリオには分からないがタパラはここで初めてクスクスと笑いながら笑顔を見せた。
「まるでプロポーズの様だな。」
それでもその表情からは悲壮感がほんの少しだけ抜けておりリオはそれがとても嬉しかった。
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