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◆ 再び扉の前に立った。 ここまでに20年近い時間を有してしまったことに己の無力を痛感している。 しかし、教団の為にということを装って優等生で居続けた。 徐々に大人からの信頼を得て、自分自身が大人になって、ついに一人でこの部屋の前に来れる立場を手に入れたのだ。 鍵を入手することはできなかった。 この扉の鍵は教団の金庫に厳重に保管されている。 さすがにそれを盗みだすことはできなかった。 だが、この部屋の扉は古いタイプの鍵しかついていなかった。 さすがにこの部屋がこの部屋としての機能を果たす様になってから数回付け替えたらしいが、そもそも科学的に証明された事象ではないのだ。 扉を交換するという事実によって部屋が効力を失う可能性もある。 だから、教団では廊下側の面が扉として使用不可能になるまで使い続けている。 今の扉も大分古いものだ。 開錠の方法は学んだ。 いざという時のためのバールも鞄の中にある。 目立つタパラ容姿だ。ここに長くとどまる訳には行かない。 今から少し後に出る夜行列車のチケットも2枚とってある。 深呼吸をしてバクバクと緊張なのかなり続ける心臓を抑える。 しゃがみ込み鍵穴に専用の器具を差し込んでゴリゴリと引くようにする。 それから、中の部品を引っかけるようにして動かす。 するとカシャンという金属音と共に鍵は開いた。 扉を開けるとそこには椅子に座って本を読むタパラが居た。 まだ、時が止まり続けていた部屋に安心とわずかな嫌悪感を感じながらタパラに声をかける。 喉も口の中もカラカラに乾いてしまっていた。 「久しぶり。」 「……もしかして、リオかい!?」 「もう少し静かに。周りに気づかれる。」 「何の話だい……。もしかして!?」 「初めて会った時の約束を果たしに来た。」 詳しいことは後で話すから行くぞと促すと、悲しそうな顔をして首を左右に振った。 「私はいけないよ。」 「何故だ!?」 「私がこの部屋に入って何年たっていると思っているんだ。 世界が違いすぎて生きていけないだろう。」 泣きそうに笑うタパラを見て腹の中の何かがブツリと切れる音を聞いた。 「一人で生きていけないのなら俺が共に生きる。 アンタが前時代の爺さんなことは初めて会った時に百も承知だ。 行くぞ。こんな恐ろしい部屋にもういる必要は無い。」 「じいさんって。」 苦笑いするタパラに灰色のパーカーを渡した。 疑問符を浮かべるタパラにパーカーを着せフードを被せた。 これで一見生き神様には見えないだろう。 二人で教団の建物を抜けて駅をただただ目指す。 手を繋いで、ボストンバックを一つ持って、それ以外何も持っていないけれどこれ以上望めないくらいうれしかった。 駅到着するとすでに列車は停車していた。 「これは、汽車というやつか?」 興奮したようにタパラが聞く。 「列車だよ。電気で動く汽車だ。これで夜通し走って西に向かおうと思ってる。」 西には大都市が点在している。 人を隠すには人の中だ。 それに田舎より仕事はあるだろう。 持っている切符に指定された客室に二人入った。 すぐに列車は発車した。 列車は轟音を上げながら滑るように線路を走っていた。 タパラは窓にべったりと顔を押し当てて暗いにも関わらず外の景色を見ている。 漸く実感がわいて息を吐き出した。 やっと、やっと彼を連れ出すことが出来た。 初めてであってからここまでに4回タパラが部屋の外に出ているのを見た。 教団を信奉するものの振りをしていたのであの後はタパラと直接話しをすることは無かった。 13歳の時に見た二回目の時。その時にタパラが俺を視認してそれからほんの少しだけ落胆の表情を浮かべた気がした。 本当はすぐにでも駆け寄って違うと言ってしまいたかったが、ただただ今日のこの日のためだけに耐えた。 「腹減ってるか?」 「全く空いてはいないよ。今は胸がいっぱいで食事どころじゃないよ。」 タパラが初めて嬉しそうに笑った。 それだけで俺も胸がいっぱいになってしまって、向かい側に座っていた彼をギュッと抱きしめた。 暖かくて、ああ、同じ時を生きてるんだってことを実感してただただ嬉しかった。
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