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朝終点である駅についてから更に2度ほど乗り換えて、漸く目的地についた。 マフィアが裏で糸を引いて発展しているといわれているこの街は治安が悪い代わりに別の土地から流れてきた人間が居たとしてもそこまで目立たない。 それに、そんな掃き溜めの様な街だ。堅い宗教の関係者もいないだろう。 マフィアと宗教が実は裏でつながっていたなんて映画のようだが少なくとも自分が昨日まで所属していて、そこで地位を重ねていたがそんな事実は知らない。 ならば、ここが最高とは言えないが最適な隠れ場所になるだろう。 仕事を探すことが先決だがそれより先にとにかく住む場所だ。 それから……。 フードを被ったままのタパラを見てそれよりもまず髪の毛をなんとかするところからかと思った。 俺の髪の毛もまじめ絵にかいたような髪型で正直変えたい。 列車の中で軽く朝食はとった。 キョロキョロとあちこちを眺めているタパラに「腹、減ってる?」と声をかけると首を横に振られた。 「髪の毛を染めて、家探そう。」 分かったとタパラは頷いた。 ◆ タパラは黒髪に染めて、自分は茶色に染めた上で短めにカットしてもらった。 一見俺とタパラだと思われないだろうと思う。 金色の目は今時カラコンだと言っておけば何のこともないのだろうが落ち着いたところで別の色のものを購入しようと決めた。 裏路地にある、いかにも寂れた雰囲気の不動産屋を見つけここにしようかと思う。 身分証明は出せないし保証人はいない。 店に入る前にタパラを見て言う。 「今から俺は、コウセイ・ハラノだ。タパラ、アンタは……。」 偽名にするべきだろうとタパラの当座の名前を考える。 「フーディエがいい。タパラは蝶という意味だから。 兄弟というには似ていないか?ファミリーネームも考えたほうがいいのか?」 「いや、いい。蝶か良い名だな。」 俺が笑うと、照れたようにタパラも笑い返した。 決まった家はボロボロの1DKだった。 そもそも、貯金をいきなり下ろせば教団に感づかれる可能性もあったのでそれほどの現金が準備できなかったのだ。 まあ、仕方がないと思うことにする。 どんな部屋だったとしてもあの部屋よりはマシだ。 何もない部屋でそれでも足を延ばしてごろりと転がると、横にタパラも転がる。 「明日から俺は仕事を探すから、フーディエはとりあえず日常生活の勉強をしよう。 外国人向けのマナー本を買えばいいな。文字は現代のものが読めるよな。」 初めて出会ったときに大人が渡していた本は最新のものだった。 「ある程度はね。」 タパラはそう言うと天井に体を向け直して真剣な表情をしていた。 「どうした?何か心配事か?」 聞くと、困ったように笑った顔をこちらに向けた。 その顔は教団で見せていた顔そのものだった。 「あの部屋はまだ、あのままあるのだなと思ってな。」 「っ!そりゃあ壊してしまえれば良かったけどあの状況で何かすれば見つかってただろう。」 「ああ、それはそうだな。」 「何時か壊してしまいたいか。」 「……そうだな。」 一旦、タパラは表情をごっそりと落としたあと。それから再び真剣な顔をして言った。 「今はまだ無理なことは分かっておる。だから、まずは体制を立て直す。 なあレオ、いやコウセイ助けてくれるか?」 「貴方は経った数日だったかもしれないが俺のために、20年近く生きてくれたんだ。 今度は俺がアンタの為に生きる番だよ。」 俺がそう言うと 「まるでプロポーズの様だな。」 と懐かしい言葉を聞いた。 その部屋はとある教団の本部建物のおおよそ中心部にまだ或ると云う。 了
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