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「君は、それでいいのかい」
彼が黙りこくったままの私に再び質問する。それは少しだけ尋問のようで、以前の彼とは変わってしまっていることを痛感する。
「いいん……だよ。もうこれ以上生きてたってしょうがない」
「君はまるでフィクションみたいな凄惨な境遇にあるしな」
「もう、辛いんだよ。生きてたって。だから、もう終わりにしようって。ここから飛べば、私も幸せになれるかな……って思うんだ」
「なるほどね」
「止めて……くれないの?」
私はこの世に誰も私の死を悲しむ人間がいないのが、どうしてかとても辛く感じた。
彼の口角が上がり、目じりが下がる。ぷっ、と息が漏れたあと、彼は大きな声で笑い出した。
「ははっ。おかしいね。止めて欲しかったの?」
私はその笑顔が愛しくて、胸が苦しくなった。そしてその胸に当てる手が暖かいことに気がついた。
「ううん。馬鹿な事聞いちゃったね」
「ほんっと、おかしいね。久しぶりにこんなに笑ったよ」
「今まで、どうしてたの?」
「いやいや、それはいいんだよ」
彼はその話題に触れることを極端に嫌った。私も正直そんなことはどうでも良くなってしまって、今はただ目の前の彼との会話を楽しみたかった。
「それで、今から飛び降りようとしている君に聞きたいんだ」
「なあに?」
「君ってほんと不幸なヤツだよな」
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