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大きく深呼吸一つして屋敷の前のチャイムを押した。
人々の足音がやけに耳につく。
都会のど真ん中で一般的な家屋より遥か高くにそびえ立つのは、悪逆非道で名高い貴族シャルル家の屋敷。
シャルル家の暴虐無人な生活振りはこの世の誰もが知っている。
最近の異常気象・自然破壊などにより今まで普通だと思っていた事が普通では無くなり、生きていくと言う事が難しくなってきた昨今。
出生率は年々減少していき、このままでは滅亡してしまうのではないかと思われるほどだった。
そんな中でいかなる時も大盤振る舞いな生活をしているのがこのシャルル家だ。
同種もを平気で殺害し、その屍を何とも無い顔で踏み荒らす、極悪非道なシャルル家。
そんなシャルル家の前で何故自分は立っているのかって?
それは…。
数秒後、この家の執事らしい人物が現れた。
貴重面そうな顔立ちをしたその執事は自分を見て軽く頭を下げた。
「お待ちしておりました。ロビンさま。使用人としての勤務許可が降りましたのでどうぞお入りください」
そう、自分は今日からここの使用人として働く事になったのだ。
この家で働く使用人の正式な数は誰も分からない。
年がら年中募集しているのにその実際の内容はどこにも公表されていない。
もしかしたら怪しい仕事内容なのかもしれないが。
だが。
法外な報酬を貰えると言われており(ここがまた怪しい事を裏付けているが)、自分はどうしてもその報酬が欲しかった。
自分にはどうしても叶えたい夢があるから。
それにしても。
元々田舎住まいな自分にはここの空気は汚すぎる。
こんなアスファルトに囲まれている所で生きているモノがいようと考えた事は無かった。
こんなとこでよく生きていられるな。
案内された部屋にはたくさんのモノが雑魚寝状態でそこにいた。
「新入りか?」
不意に声を掛けられた。
彼は地面に座りながら少しだけ開いている格子戸から外を見ていた。
「宜しくお願いします。自分はロ…」
「自己紹介なんてどうでもいいよ。そんなんしたところで、オレたちは…」
彼は短い手で口もとを拭いた。
「オレたちは…?」
「何でもない。気にするな」
彼はそう言って部屋から出ていってしまった。
彼の言葉に疑問を感じながらも歩いての移動に疲れがマックス状態担ってしまい、倒れ込むように眠ってしまった。
「…さん。ロビンさん!」
誰かが呼ぶ声がする。
重い瞼を開けるとそこにはこの家の奥さんらしき人が自分の顔を覗き込んでいて驚いてしまった。
夫人の他には誰もいなかった。
緑色の美しい瞳をした夫人はじっと僕の瞳を見つめたまま動かなかった。
喰われる!
本能的に脳がそんな危機を知らせた。
しかし、その眼光の強さに目を反らす事ができずに口をパクパク開ける事しかできない。
「驚かせてしまってごめんなさい。しかし、そろそろ夕食のお時間ですので働いてもらってもいいですか?」
「あ…申し訳ありません」
夫人は無表情のままそれだけ言うと何をどうしろと言う細かい指示は一切せず去って行った。
去り際に血の臭いがして、びくっと肩を震わせてしまった。
やはりこの家には恐ろしい何かがある!
先程の夫人の目を思いだし恐怖がぶり返してくる。
このまま逃げ出して田舎に帰ろうか?
何て情けない事まで思ってしまった。
おいおい、自分の夢はそんなもんじゃないだろう?このぐらいで何弱気になってんだ?元から怪しい仕事だって分かってただろう?
そう言い聞かせとりあえず部屋から出た。
今思えばこのまま引き返していた方がどんなに良かったことか…。
あの時の自分の行動が悔やまれて仕方ない。
ようやくディナーの席に行くとそこにはたくさんの使用人たちが先程と同じように床に雑魚寝をしていた。
いや。
確実に先程と違うとこはその使用人達はもう既に動かなくなっていると言うとこだ。
使用人達の体は切り刻まれその破片を先程の夫人、そして夫人の子供達がむさぼり食っていた。
逃げなきゃ、ここにいては行けない。
だけど、足がすくんで動けない。
やがて、夫人が僕に気づく。
「ああ、やっと来たかい?」
近寄って来た夫人は左手を大きく振り上げた。
僅かな明りが夫人のカマを照らした。
ああ、もう終わりだ…。
そのカマが僕の首をはねる瞬間僕は絶望した。
夢なんて叶わない…、だって僕はただのバッタなんだから。
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