打たれたピリオド

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打たれたピリオド

「お疲れ様です」 それは、梅雨のじめじめした空気が鬱陶しい午後のこと、私の後方から低くちょっとかすれた声が聞こえ、私の中のアンテナがビビッと張り、後ろを向いた。 やはり、そこには想像していた彼がいて、私はいつもの癖でぶりっこ顔を作った。 「原さん、史奈知りませんか?」 「え?史奈ちゃんならさっきミーティングルームにいたけど……」 「そうなんですね、ありがとうございます」 100人いたら100人が爽やかだと思うに違いない笑顔を浮かべて、ミーティングルームに向かう橘陸人(たちばなりくと)の後ろ姿を見て、私はため息を吐いた。 陸人先輩のオークモスの渋みに柑橘を組み合わせた、甘さの控えめの大人の色気を感じる残り香が胸の寂しさを煽る。 私のぶりっこ顔もむなしく乾く。 それからすぐに陸人先輩は、彼の妻である田宮史奈(たみやふみな)、今は橘史奈であるが、彼女と仲良く会話をしながら戻ってきた。 どうして陸人先輩の隣にいるのが、彼女なのだろう。 昔から好きだったのに……なぜ、私じゃダメなのだろう。 キッパリと彼にフラれたばかりの私だが、まだ立ち直れないでいる。
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