伝統を継ぐもの

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「おお、和子か」 箔打ち機に向かっていた人物が振り返り、老眼鏡を額に跳ね上げ、顔をくしゃくしゃにして微笑む。 私の祖父、浅野健太郎。六十五歳。「縁付(ふちつき)金箔」を作る職人だ。 金箔の製法は大きく分けて二種類ある。一つは伝統的な製法で作られる「縁付金箔」で、もう一つは近代的な製法で作られる「断切(たちきり)金箔」だ。断切金箔の方が生産性が高いため今はこちらが主流になっているが、縁付金箔も需要がないわけじゃない。特に、最近は美容品や食用品に金箔を入れた物があるが、箔打ち紙に薬品を含ませている断切金箔では健康上の不安があるため、縁付金箔が使われることが多い。 だけど…… やっぱり、縁付金箔の需要そのものは以前に比べたらかなり落ちたらしい。だから職人もどんどん減っていて、高齢化が進んでいる。金箔職人の平均年齢は七十歳くらいだそうだ。おじいちゃんはまだ若い方なのかも…… 金箔職人と言っても、実は工程によってさらに三種類に分けられる。最初に、材料となる金の合金を作って千分の一ミリくらいの厚さまで伸ばす(すみ)職人。続いて、その千分の一ミリの金箔をさらに一万分の一ミリの厚さにまで叩いて延ばす、箔打ち職人。最後に、できた金箔を切りそろえて仕上げる、箔移し職人。 おじいちゃんは箔打ち職人だ。とにかくひたすら金箔を薄く薄く延ばしていく。最終的に一万分の一ミリの厚さになった金箔は、向こうが透けて見えるほどだ。これが箔移し職人によって箔合紙(はくあいし)に乗せられるところは、本当に美しい。金箔の表面がさざ波のように揺れるのだ。見ていてため息が漏れてしまう。
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