そんな黄金のリンゴなんてなくなればいい

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 私の声に、驚いたのかどうかはしらないけれども森本君はびくりと震えて固まる。 「それが、どうしたの?」 「いや、だって……きもくね? 男が男を好きって」 「私としては休み時間にあの女子のおっぱいでけーとかってデカい声でしゃべる精神の方が気持ち悪いよ」  ため息をついて、私は自分の席に荷物を置くと黒板に近づく。  実際、東君が同性愛者だろうがなんだろうがどうだっていいのは本当だ。だって、それは東君のプライバシーにかかわることだし、なんだったらそれで迷惑をかけているわけでもない。  私が、黒板に書かれたソレを消そうとしたとき先ほどまで静かになっていた教室が一気に騒々しくなった。なんだろうと思って目を向けると、黒板に書かれた文字の矛先である東君がいた。  彼が呆然として見ている中、私は黙って消していく。書いた人がどこの誰だか知らないけれど、随分と力強くねちっこく書いたようで、あとがなかなか消えやしない。いらいらする。  まだ、完全に消えきったわけじゃないけれども大方消えたのを確認すれば私は東君を見た。彼は、最初と変わらない呆然とした顔で黒板をじっと見ていた。彼に近づいていけば、彼は私にようやく気付いたのか、ハッとした顔で私を見る。 「おはよ、東君」  私は、いつもと変わりない挨拶をして、席に戻った。  クラスのみんなは、何か言いたげだったけれども何も言わなかった。私にも、東君にも。
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