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事後
呼吸が整ったあと、和真は尚人の中に放ったものを時間をかけて掻き出してくれた。普段はちゃんとゴムを着けてするが、バスルームで事に及ぶときは、生でしてしまうことがあった。
「全部出たかな」
「出たって」
また中に入れてこようとする指を、尚人は手で払った。
達したばかりなのに、そこを弄られるとまた疼いてきそうなのだ。自分の性欲の強さに呆れてしまう。
シャワーで軽く体を流したあと、ふたりはバスルームを出て体を拭き、キッチンで水分を摂った。
尚人は裸のまま、ダイニングテーブルに着き、さっき残したご飯と味噌汁を食べた。残したら勿体ない。
「――なおって本当に天然だよな、そういうところ」
和真が肩をすくめて言う。
「何が?」
また尚人は首を傾げてしまう。
「真っ裸でそこに座って食べるとか――エロいんだって。誘ってる?」
「えっ? そういうつもりじゃ」
尚人は慌てて席を立った。
食べ終えた食器(和真の分も)をキッチンの流しに置いて、ついでに洗っちゃおうかな、とスポンジを手にした時だった。
「なーお、こっち来て」
「え?」
和真がいつの間にか、寝室のフローリングに布団を一枚敷いていた。枕元にはちゃっかりローションとゴムが置かれているのが見えた。そして、彼の股間に目が吸い寄せられてしまう。それはまた回復の兆しを見せていて。
じわり、と、まだ閉じ切っていない場所が、熱く湿った気がした。
――和真は前から絶倫だったけど。
自分もかなり欲しがりになってしまった。
布団の上で存分に耽ったあと、ふたりは全裸のまま体を寄せあった。
「――それで、熱中症になった後輩は一人で帰ったのか」
尚人の髪を撫でながら、和真が聞いてくる。
「ああ、うん。十時半ぐらいに戻ってきて、『帰ります』って言ってきた。タクシー呼ぼうかって聞いたけど、大丈夫ですって。普通に歩けてたから、まあ大丈夫だと思うけど」
そこまで言って、尚人はちょっと心配になってきた。
「――大丈夫だよな? 途中で倒れてたりとかしてないよな?」
「俺に聞かれても――大丈夫じゃないか? なおがちゃんと応急処置してやったんだし」
「家に着いたら電話するように言っておけばよかった」
そうすれば、今こうして、彼が無事に帰ったのか心配することもなかった。
「なおは優しいな」
和真が吐息混じりに言う。
「そうかな」
自分が優しいなんて自覚したことはない。
尚人の瞼にそっとキスを落としながら、和真が言った。
「なおは優しいよ」
そんなことない、と言い返したかったけど、できなかった。和真の唇に塞がれて。
唇が離れたとたん、和真が「愛してるよ」と囁いてくる。まだ言われ慣れていない科白。尚人ははにかみながら、「俺も」と答えた。
「愛してる」
これが二回目に言った「愛してる」。一回目は先月旅行した御宿で言ったのだ。
先に言ってくれたのは和真だった。御宿の海岸で、風が強い日に。
自分はあのとき、泣いてしまった。嬉しくて、目の前にいる和真が愛おしくて。
――俺も愛してる。
しゃくりあげながら、尚人も言った。
思ってもみない幸せに直面すると、悲しくもないのに胸が苦しくなって、涙が込み上げてくるのだと、尚人はあのとき発見した。
愛していると言いたい相手に、愛していると先に言ってもらえた。同じ想いを抱えていたのだと思うと、歓喜で体が震えた。
あの日のことは一生忘れない。死ぬまでずっと。
ぎゅっと和真に抱きつくと、それ以上の力で抱き返してくれて、また嬉しくなる。
ふたりは目を合わせて、口を開いた。
「愛してる」
申し合わせたように、同時に言っていた。
「このまま寝ちゃおうか」
一枚だと狭いけど、と和真が笑いながら言う。
「うん、寝ちゃおう」
尚人が欠伸混じりに答えると、今度は額にキスされる。更に、頬、顎、首筋、耳たぶと羽が触れるようなキスが続いた。セックスを誘引するようなものではない。尚人は安心して、恋人の胸の中で眠りに落ちていった。
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