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コガネムシ
田舎が描く都会像は歩きづらいヒールでカツカツ歩いたモデル体型ばっかいるとか。天気予報だとかのニュースの後ろのイキがった野次馬だとか。
無造作にテレビのチャンネルを変えるとどこも不倫とかドラッグとか殺人。同じ事を違う番組で色んな憶測が飛び交う。
音を聞くのも億劫になって電源を消した。すると聞こえてくる自動車の音、院内アナウンス、慣れた香る消毒液。どれも田舎者の私には黄金虫のように輝いて見えた。
光沢のある艶やかなボディ。最近見ないカブトムシだってコガネムシの一種なのに。
私の命は飛び交う虫よりも弱い。あれだけ生きたいと望んだのに。私は黄金虫にさえなれなかった。両親に恩返しもしてないし、彼氏だって欲しかった。高校にだってみんなと一緒に通いたかった。
後悔しかない人生だった。楽しいことも今はもう覚えていない。嫌な記憶ばかりが思い浮かぶ。
そういえば。幼い頃、幼馴染だった子と一緒に遊んだ時に黄金虫が肩に止まって号泣した気がする。何度も取ってって言ったのに取ってくれなかったから、手で払って──。
あぁ、私。あの虫。殺したわ。汚ならしい液体を撒き散らして、バリッと踏みつけて。硬い感触だった。汚くて汚くて。あの時の服とか靴とか。全部棄てた。
「……同じだ」
私は黄金虫だった。
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