嫉妬

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                 * 「高い、高ぁい」  散髪を終えた篠田太一が和徳を放り投げる。  毎週日曜日のいつものことで、ゴリラのような大男に投げられてはキャッチを繰り返される和徳がきゃっきゃ笑って「もいっかい、もいっかい」と喜んでいる。  太一も面倒がるどころか、ますます気を良くしているようだ。 「和君ったら、もう赤ちゃんじゃないのよ。篠田さん、いつもすみません。重いのに」  器具の手入れをしながら佐和は困った表情を浮かべて頭を下げた。 「重くないですよ」  太一が照れたような笑顔を返す。  そこにあさ枝がつっけんどんに釣銭を差し出した。 「毎度毎度うちの大事なひ孫ぶん投げて、落として頭でも打ったらどうしてくれんやっ」 「お、おばあちゃんったら――重ね重ねすみません」 「いえいえ。おばあちゃんの言うことはごもっともです。でもまだまだ和君は小さいし軽いから落っことしゃしませんよ」  太一の言葉に太い首にしがみついた和徳がぷっと頬を膨らませた。 「かずくん、ちいさくないもん。おっきくなったもん。ねっママ」 「そ、そうね――もう和君まで――ほんとすみません」  佐和は申し訳なさそうに謝罪しつつも、つい可笑しくてぷふっと笑いを漏らしてしまい、もう一度消え入るような声で「――すみません」と太一の顔色を窺った。  だが、自分たちを見つめる温かい眼差しに気付き慌てて目をそらせる。 「そうだな。和君おっきくなったな。おじさん間違ってたよ」  その言葉に機嫌の直った和徳は脚をばたばたさせ、さらに太一の首筋に強くしがみつく。 「ほれもう離れぇ、お前も散髪すんだんよって早よいね」  引き剥がすように和徳を引っ張るあさ枝に、太一が慌てて床に降ろした。 「ばいばい」  入口で手を振る和徳に名残惜しそうにしながら太一も手を振り返す。  早々とあさ枝が閉めたドアガラスの向こうに映る太一の背中を佐和は見送った。  憶測の域を出ないが、太一が自分たちに好意を持ってくれていると感じていた。  もしそれが事実なら――と、頬の緩む自分の顔が鏡に映っていて赤面することも多々あった。  和徳も懐いているし――いや、だめだ。香子の呪いに太一を巻き込むわけにはいかない。  それにこんなことで浮かれている場合じゃない。赤いでーさいに隙を突かれて和徳を奪われるかもしれない。  和徳が引きずられて坂道を下っていくのを想像して佐和はぞっと身震いした。  油断してはいけない。  佐和は遠くなっていく太一の背中から視線を引き剥がした。
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