プチ改おやゆび姫

2/14
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
「ありがとうございます。」と女の人はお礼を言うなり急いで家に帰り、早速、庭に転がっていた植木鉢の中に麦を植えました。  女の人はじっと植木鉢を見つめて、何が起こるんだろう、一体どうなるのかしらと考えていると、驚いたことに早くも土の表面がもぞもぞ動き出して芽が土の中から顔を出し、ぐんぐん伸びて次第に葉っぱをつけました。まるでチューリップのようで、それからもどんどん育っていって、あっという間に大きな赤い蕾をつけましたが、ずっと蕾は閉じられたままでした。  女の人はその後もじっと見つづけていましたが、なかなか花が咲かないので溜め息をつきました。とは言え、あんまり綺麗な蕾なので赤い花びらにキスをしました。  すると、花びらがきらきら光りながら開いて来て鮮やかな真っ赤なチューリップが咲きました。   女の人は太陽光線に透かされた花びらの中で何か物影が動いたような気がしましたのでチューリップの中を覗いてみますと、花の真ん中に人がいることに気がつきました。艶々した緑色の雄蕊にかこまれて、とても小さな女の子が可愛らしく座っていたのです。女の子は親指位の大きさしかありませんでしたから知らず知らずの内にみんなから、「おやゆび姫」と呼ばれることになりました。  おやゆび姫はつるつるに磨かれたクルミの殻の上にバラの花びらの敷布団をしき、それにスミレの花びらのシーツを被せ、ロータスの花びらを掛け布団にした、とても素敵な揺り籠を女の人からプレゼントされました。だから、お月さんが出ている間はそこで寝ていました。そして、お日さまが出ている間はテーブルの上で遊んでいました。テーブルの上には女の人が用意してくれたお皿がありました。水がいっぱい入っていて、お花の茎がさしてあって、お皿のふちをお花の輪っかで飾ってあるとても洒落たものでした。  おやゆび姫はお皿の中では大きなチューリップの花びらをボートがわりにして遊びます。草の茎で作ったオールを二本使って花のボートをこぐのですが、左右にゆらゆらゆれながらボートの上にある景色をとても心地よく観賞するのです。余りにも心地よいので鼻歌を歌ったりするのですが、それがこの世のどんな上手な歌い手より上手くて甘くやさしい歌声なのです。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!