兄の番人 1-1

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兄の番人 1-1

兄の番人 1  小学校三年生のクリスマスイブの話だ。  家族とダイニングの食卓を囲んでいたとき、おれはクリスマスツリーがほしいといった。  おれはそんなことをいいだす子供ではなかったから、両親はおどろいたように顔をみあわせた。ふたりの兄もふしぎそうにおれをみていた。長男の星一は中学二年生、次男の理月は小学六年生、ふたりともツリーに興味はなさそうだった。  おれはその日、幼馴染みの茅場正のアパートでツリーの飾りつけをしていた。茅場の母親は仕事でいそがしくてツリーを飾る暇がなかった。茅場とおれはショッピングモールで買った雪や人形をツリーに飾りつけた。  最後にてっぺんの星を忘れたことに気づいた。おれは厚紙とアルミホイルで星をつくってツリーにとりつけた。 「晴也は意外と律儀だよね」  茅場に同じことを言われたのは、部活の準備のために体育館の床をモップでふいていたときだった。バスケットシューズがすべると嫌だから、といったら茅場は笑っていた。色白で口が大きい茅場はかえるに似ている。  おれは見かけは体育会系だが、中身は繊細だ。天然パーマの髪と眉がくるくるしていて、目と鼻と口が大きい。小学生のときにミニバスケットをはじめてようやく背が伸びたけれど、幼稚園のころはチビで、茅場といっしょに列の一番前に並ばされていた。中学二年生で百七十五センチあればまあまあだが、センターとしてはまったく身長が足りない。  兄たちはおれと違って一見繊細そうだが、中身は大雑把だ。大学一年生の星一は整ったやさしげな顔をしていて、高校二年生の理月は凶悪な性格とはかけはなれた天使のような顔立ちをしている。  理月は高校の奉仕活動で天使をやらされている。クリスマスになると、教会で天使に扮して裏声で賛美歌をうたう。
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