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兄の番人 1-4
両親は医者に、理月には精神疾患の兆候があるといわれていた。両親は理月がとうとうこの世界から離れてしまったと思ったらしい。
でもその予言ははずれた。
理月はおとなしい子供ではなくなった。いつもイライラして、なにかに怒っている、いまどきのふつうの子供になった。
そのころから理月は星一の後をついてまわるようになった。理月は星一が自分だけにやさしくしていると思っていたのだろう。星一は理月のぬいぐるみだった。ないと不安になるぬいぐるみ。星一は家から通える大学に入ったけれど、理月は星一が他県の大学を受けるといったらどうするつもりだったのだろう。理月は星一にべったりで、いつ理月がぬいぐるみを手放すかはだれにもわからない。
理月に言われるまで、おれはクリスマスの日のことなどすっかり忘れていた。
理月はいつも淡々としている星一に腹を立てて、星一の金を盗んだり物を隠したりして星一を怒らせようとした。が、星一が怒ったことは一度もなかった。
理月は、星一の神経はイカ並みだという。イカには神経が一本しかないそうだ。星一は一度も泣いたことがないともいっていた。当然それはうそだったが、理月もおれも、星一がいつから泣かなくなったのか知らない。
おれは、理月が星一にキスをしたのは、理月のいやがらせだとしか思っていなかった。
だから星一に、お前は最初から知っていただろう、といわれても、おれはなにもいえなかった。
あのときも親にいわなかっただろう、と共犯者のようにいわれても。
星一とセックスをしていたとき、理月はおれをガラス玉のような目で見ていた。
弟をくわえていた星一の尻を手で覆い隠しながら。
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