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兄の番人 2-2 *
関節の痛みをごまかしながら、マウンテンバイクで家までかえった。学校から家までは坂道をずっと下っていく。
ここは街まで電車で二十分のベッドタウンで、住宅団地が階段のように海際までつづいている。バス通りの広い通路を下ると、葉のおちたケヤキの並木越しに海が広がっている。晴れると水平線がみえるが、曇ると空と海の区別がつかなくなる。
おれが家にかえったとき、家にはだれもいなかった。薬箱から痛み止めをとって二階の自分の部屋へむかう。母親は六時までスーパーのレジ打ちをしているし、理月は教会のコンサートの準備で夜中まで帰ってこない。星一は家庭教師のアルバイトをしているので、帰りが早かったり遅かったりする。
部屋にはいると、おれは薬を飲んでベッドへ横になった。
ひざの痛みが治まってきた。痛みが気にならなくなったころ、おれは吸い込まれるように眠りに落ちていた。
目をさますと、緑のカーテンから黄色い光がさす夕方になっていることに気づいた。
ドアを開けかけて、動きを止める。苦しんでいるような呻き声。男の。
そっとドアをあけて、暗い廊下へ出た。となりは星一と理月の部屋のドアで、さらに歩くと吹抜けの踊り場にでる。
踊り場から一階のリビングを覗いた。
ソファに裸の男がふたり向かいあって坐っていた。ソファのうしろで金色に染まった白いカーテンがゆれている。
リビングの、うすい緑のソファ。幾何学模様のなかで、肌色のものがビクビクふるえている。
やせた男の背中だった。カエルみたいにひらいた足が痙攣している。もうひとりの足が、肌色の尻の横からはみでていた。
グチュッグチュッとリズミカルに音が鳴る。尻がキュッキュッとくぼんでいる。男のアレをしゃぶって吸い上げるように。
躍るうすい茶髪と、茶髪の肩を抱いてぐったりともたれかかる黒い髪。
理月が顔をあげておれを見た。凍りついたような無表情で、理月は星一の尻を手で覆いかくした。
「く……アァ……」
ガタガタと肩がふるえる。気がつくと床に坐りこんでいた。
ちがう。ちがう。ちがう。あれは星一じゃない。
星一の声じゃない。
喉から吐き気がこみあげる。両手でかたく口を覆う。
「ああっ!」
女みたいな悲鳴が走る。
「や……もう……」
肉がぶつかるにぶい音。はげしい吐息。うわずったかすれた声で。
「イク」
うわごとみたいに何度も、イク、と。
ギリギリの声が高くなっていく。
「いけよ」
肉がはじけるような音をたてて、理月の身体が星一に突き刺さる。
満足したようなため息のあとで、動きが止まった。激しい吐息がしばらく続いていた。
「もういいだろ」
理月の低い声がひびいた。息があがって答えられない星一に、膝を上げて、とつぶやく。
グニュッ、と水音が響いた。尻からアレをひきぬく音だった。
視界にノイズが走って、フローリングの床の目地がゆがむ。こんなところでなにをしているんだ。気持ち悪い。あんなのまともじゃない。
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