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兄の番人 2-3
ゆっくりと不規則な足音が遠ざかって、浴室のドアが閉まる音がした。
「降りてこい」
おれはのろのろと階段をおりていくと、脱ぎっぱなしになっている理月の制服を拾い上げた。
「ティッシュ取って」
おれはローボードのうえのティッシュの箱をとると、理月に放り投げた。理月は濡れた腹をティッシュでぬぐいはじめた。
貧弱な身体だった。白っぽい腹に、さらに白い星一のアレが浮いている。中途半端に肩にかかる茶髪が乱れている。
さっきまでセックスをしていたとは思えないような、冷ややかな顔だった。
理月は茶髪を長めに伸ばしていて、身体が細いせいか大きな女みたいにみえる。170センチまでいかない星一はとっくに追い抜かしたが、177センチある理月とはあとちょっとの差だ。理月はそのことにすごく腹を立てていたが、おれはじきに理月を追い抜かすだろうと思っている。
理月はむかしから女嫌いだった。
理月がゲイだったなんてしらなかった。星一も――そうなんだろうか。
青臭い精液のにおいがした。おれとおなじにおいのアレが星一の尻に――吐き気が喉からこみあげてくる。
あんなことが気持ちいいのだろうか。星一は一度も聞いたことのないような甘い声でイっていたけれど。
「よごれないの」
理月は顔をあげておれをみた。二重の切れ長のきつい目だ。
理月がコンドームを取った。理月のアレはもうむけていた。ティッシュでアレをぬぐって、ピンク色のコンドームの先を縛る。
「ゲイなの?」
理月はコンドームをティッシュで丸めてごみ箱へ捨てた。
理月は肩をほぐすように上下させると、床に放ってあった緑のトランクスを穿いた。
「あいつは誰も好きじゃないし、俺も男は好きじゃない」
「じゃ、なんで?」
「おまえには関係ない」
理月はおれの手から制服をむしりとると、そのまま階段をあがっていこうとした。
「なんでこんなこと……」
理月は足を止めておれをみおろした。
「おまえ、まえから知ってただろ?」
「なにを」
「おれたちのこと。クリスマスの日、見てただろ?」
一瞬理月がなにをいっているのかわからなかった。が、おれは、ふたりがクリスマスツリーの向こう側でキスをしていたことを思いだした。
理月ははじめからおれが見ていたのを知っていたのだろうか。
さっきすぐにおれに気づいたように。
「親に言うか?」
理月は顔の半分だけを歪めて笑った。
「チクれよ。得意だろ?」
カッと頬が熱くなる。
風呂場で物音がしなくなったことに気づいたのか、理月はおれの腕をつかむとむりやり二階へ引きずっていった。
「星一には言うな」
おれの部屋のドアをあけると、理月はおれを荷物のように放りこんだ。衝撃をやわらげた右手に痛みが走る。
「言ったら殺す」
冷ややかな声でいうと、理月はおれの部屋のドアを閉めた。
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