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「銀次さん。」
「は・・はい。。」
「俺は 柏木組の皆さんに本当に良くして頂いて。
何回も宴会に呼んで頂きました。
マル暴の俺の為に開いて下さった事もあります。
鬼頭さんを始め 龍さん。力弥さん。佐々木さん。
神田さん。舎弟の皆さん。いつも朝から準備をして
それこそお酒も飲まず 何も食べずに
働いてらっしゃるのを 何度も見ています。
料理を一緒に作らせて頂いた事も。
でも。誰一人 文句を言っているのは
聞いたことがありません。」
口調が少し厳しくなり 銀次と健太は
グッと項垂れる。
「神田さん。お酒が飲めない俺の為に
いつも飲める物を用意してくれました。
料理の最中も 何も言わなくても
お皿やお椀を出してくれて。
お酒を少し飲み過ぎてしまった時は
佐々木さんにわざわざ車で送って頂いて。
後から 迷惑かけてすいませんと謝ったら
いや。すいません。俺がもっと早く気づけば。。
大丈夫でしたか。って逆に謝られました。
なんでマル暴の為に 俺たちが働かなきゃ
いけないんだよ。なんて言われて当たり前なのに
そんな風に 言われた事。一度もありません。」
顔を上げられない銀次の手をそっと取り
矢野さんは顔を覗き込む。
「誰かと比べて自分の可能性を潰すのは
勿体ないと思います。
銀次さん。健太さん。それぞれ 自分の物差しの
目盛りを一つずつ 先に進めていけば
振り返った時 こんなに来たのかって。
きっと思います。それには今 やるべき事に
しっかりと向き合っていくべきです。謙虚に。」
謙虚。。
銀次がポツリと復唱した。
「そうです。」
ニコッと笑みを浮かべ 二人を交互に見る。
銀次と健太は深く頭を下げた。
「す・・すいませんでした!」
いえ。あの。謝らないで下さい。
あたふたと矢野さんは二人の顔を上げさせる。
ああ!っと急に大きな声を出した。
龍兄に礼を言い 紙袋を持ち中に手を突っ込んで
大きなタッパーを出す。
「銀次さん。すいません。大きなお皿ありますか。」
あ。。はい!と銀次が食器棚に向かい
「健太さん。鬼頭さんに許可は頂いたので
皆さんのおにぎりを作ります。
お腹。空きましたよね。
お手伝いしてもらっていいですか?」
はい!と健太は嬉しそうに頷く。
二人を促し バタバタと働き始める光景を眺め
「やっぱ。矢野さんには敵わないっすね。」
心底感心して そう呟くと 龍兄も ああ。と頷く。
ホント敵わない。
すごい人だ。
やっぱり矢野さんは 凄い。
さて。
こうしちゃいられない。
俺も働くか。
酒が乗った盆を持ち 廊下に出ると
高嶺兄貴が壁に寄りかかり腕を組んで 俺を見た。
薄いブルーのサングラス越しに
切れ長の瞳が光る。
・・マズイな。
全部聞かれてたかも。。
どうしよう。
銀次の気持ちもわかるし
あまり怒ってやっては欲しくない。
せっかく今 気分が変わった所だし。。
高嶺兄貴はしばらく黙って俺を見つめ
ふっと笑い 座敷の方を指差す。
「佐々木。神田を呼んでこい。
あの様子じゃ 握りの前に 祝いを言いに行こうと
していたのをすっかり忘れているだろうからな。」
踵を返し その場をすっと離れていった。
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