序曲

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「そっか。直人さん。行くつもり無いんですね。」 少し寂しそうに そう言われ罪悪感が持ち上がる。 とはいえ そう切り出して貰って助かった。 「ああ。うん。。ごめんね。 この後 用事があってさ。」 申し訳なさそうに頭を下げ そう返すと わかりました。と湊は頷いた。 残念だけど。 そう言いながら 言葉を続ける。 「直人さん。進路も教えてくれなかったけど どうするんですか。これから。」 「え。ああ。。。就職。。?」 「就職。。っていうか なんで疑問形?」 またくすっと笑われた。 どうも調子が狂うんだよな。この子と話すと。 なんとなく見透かされているような気分になる。 それ以上 俺が話をする気が無いのを悟ったのか 肩を竦め 「わかりました。まあ。いいや。 直人さんには またどこかで会えると思うし。 LINE ブロックしないで下さいね。」 すっと手を前に差し出される。 会う事は二度と無い。 カタギに迷惑をかけるな。 柏木組の鉄の掟のうちの一つ。 湊の進路も聞いてないけど 多分大企業への就職が決まっているんだろう。 就活に苦しむ学生が多い中 どうも早々に内定を貰っていたみたいだし。 前途洋々。 まさに勝ち組。 俺たちとは住む世界が違う。 LINEもすぐにブロックして 関係は根刮ぎ 切り離すつもりだ。 コイツだって。 俺が極道だって知ったら 掌を返すに決まってる。 遠くから 湊!と声がかかる。 思い思いに着飾り 楽しそうにはしゃぐガキ共が こちらに向かって 手を振っていた。 ナイスタイミング。 差し出された湊の手をぎゅっと握る。 最後くらい とびっきりの笑顔をくれてやる。 「湊くん。元気で。頑張ってね。 色々ありがとう。」 手を離し 踵を返す。 湊は黙ってその後ろ姿を見送った。
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