序曲

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「で。なんだコイツ。また絡まれてんのか。」 真司は ギロッと隣のガキを睨みつける。 襟ぐりを掴もうと伸ばした手を払い 「カタギに手 出すなよ。すぐそうやって 熱くなるの。真司の悪いとこだって言っただろ。」 「だってよ。。」 不満げな真司の顔に手を伸ばし サングラスを取りあげた。 「なんでサングラス? 似合わないのに。」 「高嶺兄貴に貰ったんだよ。 スーツ貰った時にかけてたヤツ カッコいいなって じっと見てたら 笑われたけど ほら。って。 大事にしてんだから 返せ。」 真司も高嶺兄貴に憧れて組に入った。 今でも 心酔してるから 相当嬉しかったんだろうな。 慌てて 取り返そうとする手を振り払い サングラスをかける。 その姿を見て 何故か真司が グッと黙り込んだ。 「俺の方が似合うんじゃない。」 揶揄い声でそう聞くと 渋々頷く。 「わかったよ。お前の方がカッコいいです。 もういいだろ。返せ。」 強硬手段に出ようとする真司の額に 掌を押し当て 止めると ポカンと口を開けている 浅黒ガキへと向き直った。 顔を近づけ 低い声音でハッキリと。 「お前さ。しつこいんだけど。 なんか話があるなら 事務所で聞こうか。 ご自慢の親父さんに話つけたっていいんだよ。 どうする? 行くなら車 向こうにあるけど。」 黒光りするセダンに向かって顎をしゃくると 浅黒男はブルブルと震え出し 慌てて後ずさりする。 一歩 足を踏み出すと ひいっ!と鳴き声を上げ 一目散に校内へ逃げていった。 あー。 「すっきりした。」 うーん。と大きく伸びをする。 もともと啖呵を切ったりする方じゃない。 言う前に横の兄弟が騒ぎ出すし。 でも 意外と効き目あったかな。 最後くらい自分でケリをつけないと。 四年 我慢した鬱憤を晴らし 満足していると ぬっと手が伸びてきた。 「はいはい。」 サングラスを外し 真司に返す。 嬉しそうに身につけ 「ほら。行くぞ。」 そう言って 歩き出した。 急いで追いかけて横に並ぶ。 「良かったのかよ。あんな風に脅して。」 「もう。卒業したんだから関係ないよ。」 ふーん。と言いながら 俺を眺め ニヤッと笑みを浮かべた真司は セダンの助手席のドアを開けてくれる。 「ありがとうございます。」 ワザとらしく礼を言い 乗り込もうとした時 視線を感じ 振り返った。 でも その先には 誰もいなかった。
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