16人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
5
俺はこの春から、院生になりはるは保育園の年長になった。
今日は保育園の保護者会。
年長は卒園を控えているので、役員決めはかなり揉めると聞いている。
保育園は、親が働いていることが前提の施設なので、保護者会は仕事に影響が出にくい土曜日に開催されることが多い――しかし、世の中には土曜日に勤務させる職場も少なくない。そんなことを言ってもキリがないのだろう――ざっと見た感じでは、全体の半数強の保護者しか集まっていないようだ。
数か月前に、はるが噛み付いた男児の母親も出席していた。
「先日は、義母が大変失礼致しました――」
概要は全て、園長先生からご両親に伝わっており、家族で話し合いをしてトラブルの無いようにする為に、祖母が送迎をする時は時間を変更することや、差別的な発言を息子にしないようにといった取り決めをしたという。その際に、義母の抱えるストレスも垣間見られたので、今年度からは極力両親で送迎できるように勤務時間の工夫を始めたと話してくれた。両親共に、大手法律事務所に勤める弁護士らしい。
「もっと早くにお目に掛かって失礼をお詫びしなければと思っておりましたが、結局、今日まで引き延ばしてしまいました。本当に申し訳ございませんでした」
「いや、子供達はケロッとして仲良くしてもらってるみたいなんで、大丈夫ですよ」
その言葉を聞いて、母親はやっと安心した様子だった。「主人からも、くれぐれもお詫びをするようにと、強く申し付かっております。どうか、遥ちゃんのお父様にも宜しくお伝え下さいませ」と続けた。
俺の気持ちも晴れた。今日、保護者会に参加して良かった――
「今年度で、保育園での生活は最後になります。来年は小学生になりますので、園でもできる範囲でサポートさせて頂くつもりです――先日、皆さんにアンケートを実施したなかで、皆さんの関心が高そうな『金銭教育』について本日は皆で考えてみようと思います」
俺が記入した内容が、採用されたようだ。それぞれの家庭では、どんな方針で対応しているのかじっくり勉強して帰ろう――
そして今日聞いた内容を家に持ち帰り、彼に伝え、一緒に『我が家の方針』を決めていくつもりだ――はるを通して、俺も親として成長していこう! 今日は改めて決意を新たにした。
先日まで美しく咲き誇っていたソメイヨシノもすっかり葉桜になり、街路にはハナミズキが色鮮やかな花を咲かせている――慣れない院生活も、はるの可愛らしい笑顔を見れば忘れてしまう程度の不自由さだ。
俺は、卒対役員に立候補した――学生なので比較的融通が利く。最後の年に、はるの為に頑張るつもりだ。
(完)
最初のコメントを投稿しよう!