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初めてのお小遣い
「ぱぱー! おにいちゃーん! はるね、じいじとばあばにおこじゅかいもらったよ。それとね、おねえちゃんに、きてぃちゃんのオサイフもらったの!」
院試が終わったその足で、久し振りに休暇が取れた先生と一緒に、俺の実家に預けていたはるを迎えに行った。
お袋は、俺たちが揃って行くと告げたせいか、腕によりをかけて夕食を拵えて待っていた――本当はとんぼ返りしたかったが、先生やはるが、凄く嬉しそうにしていたので、ついつい長居をしてしまった。
「あんた、遥ちゃんの金銭教育はどうなってるの? もう五歳でしょ? そろそろ、買物や金銭感覚の教育も必要になってくる時期よ」
お袋が俺に向かって捲くし立てると、先生が神妙な顔で『すみません、僕が忙しいせいで、はるの事は全て彼に任せっぱなしで……』と謝る。
すると、先生と弟と3人で美味そうにビールを注ぎ合いながら世間話に興じていた父親が、口を挟む――
「母さんは3人のやんちゃな子供たちを育て上げたベテランだから、間違ったことは言っていないと思うぞ。もしも心配だったら、保育園の先生や他の保護者の方に訊いてみてもいいんじゃないか?」
「今の流行っていうのも、あるかもしれないしな――」等と続けながら、さらりとアドバイスをくれる親父は、さすがだ。誰ひとり傷付けずに場を丸く収めてしまう。
はるは、お袋からは100円玉を四枚・50円玉を一枚・10円玉を四枚・5円玉を一枚・1円玉を五枚、親父からは500円玉を一枚貰ったという。両方とも同じ金額だと聞いて、飛び上がって驚いていたよ――と、目を細めながら、二人してその時の様子を俺達に話して聞かせた。
それを見た妹が、近所の雑貨屋さんにはるを連れて行き、首からぶら下げる紐のついたがま口タイプの小銭入れをプレゼントしたら、そこでもまた、全身で喜んだはるを『あんまり可愛くて、ぎゅーっと抱きしめちゃったわよ!』と口を挟む。皆に可愛がられて、はるは幸せだ。
「ところで、院試はどうだったんだ?」
徐に親父に尋ねられ、手応えがあったような無かったような――正直に答えると「今回は先生に学費の面倒を見ていただくんだから、受かったら一生懸命勉強するんだぞ?」とだけ言って、再び美味そうにビールを飲み始めた。
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