女神炎上

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 いったい、今、何時だろうか。当然ながら、日中ではない。外は真っ暗だ。夕方でもなく、明け方でもない、その間のいつか・・”午前様”は、とおに回っているのは間違いない。しかし、東三千子の目は冴え渡り、とうてい眠れそうにない。  自分がそんな心境になるなんて、今まで一度も想像したことがなかったが、現実は、その予想を簡単に裏切った。”そうかあ、自分も女なんだなあ”と改めて感じないではいられない。いろいろな事情で、還暦の自分が、”世界を移る”ことで、肉体年齢は、その半分ほどになった。”元の世界”に戻ったら、元のおばあさんに戻ってしまいそうで。正直言って、怖くなってしまう。ハイティーンのときの、はちきれんほどの、まさにぴちぴちの張りのある肉体から比較すれば年相応とはいえ、それでも、還暦過ぎの以前の自分のそれを思えば、よほどか、”どうよ!”って状態になっている。これならば、赤ん坊を宿すことも出来るのではないだろうか。実際、すでになくなっていた”あの日”がよみがえっていた。あれまで戻ってくるのは、正直、あまり軽くない自分にはありがたくないわけだが、こればかりは、トレードオフの関係なわけで、あきらめるしかない。  繰り返すが、別にコーヒーを飲んで、締め切りの迫っている翻訳原稿のために、英文原書と格闘しているから、起きているわけではない。それなら、数日前に一段落ついている。コンスタントに仕事はしているが、以前の自分に心臓の病があったこともあって、よほどのことがない限り、無理に仕事を詰め込むことはない。仕事量を増やしても、その質が落ちては、次の仕事の受注に響くことを考えれば、マイペースであることが望ましいと経験的に知っているのだ。  東京都内の高層マンションの1フロアを貸しきっての部屋だ。もちろん、三千子の収入では、一晩でも借りることは困難なのは、言うまでもなかろう。世界的有名ミュージシャン”サンシャイン・ボーイ”通称”サンボ”の日本での活動拠点だ。こういうマンション、世界中の、特に有名録音スタジオのある都市にある。  三千子がこうしている間にも、世界のどこかの放送局で、彼の作った歌が放送され、その印税が、彼の口座に振り込まれているのだ。彼の資産がどれほどか、考えたこともないし、当然、銀行口座も見たことはない。”彼の妻”の三千子でありながら、だ。
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