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今の時点で、”一生遊んで暮らすほどの財産がある”らしい、彼の言葉を、信じるしかないが、彼の世界での人気を思えば、その言葉のどこにも疑いを入れる余地はなかったわけで。三千子のいた”元の世界”とほどんど違いのないこの世界ではあったが、その見せ掛けとは別に、当然その詳細を知っているわけではないが、それでも、”サンボ”の人気は、嘘がなかった。
国民的歌手という言い方があるが、確かに、彼は地球的歌手であった。
で、ありながら、スクリーンやステージ上での圧倒的な存在感を示しながら、いったんそこの裏口から外に出ると、従業員、スタッフと区別がつかなくなるという特技を持っていた。
だから、三千子と東京の秋葉原、銀座、渋谷という繁華街って場所を手をつないで歩いても、まず気づかれることがない。
背の高い黒人青年だが、褐色の肌というところか。おそらく、どこかで白人の血が入っているのだろう。鼻筋もそこそこ通っている感じがする。しかし、その絶妙のリズム感とステージダンスのキレは、超一流だ。”サンボ”の編み出した、リバースウォークは、世界中の皆が真似をする。その脚の動きは前に向かって歩を進めているはずなのに、体は後ろに滑っていく。その動きに、皆が一度は幻惑される。
本名はきちんとあるが、サンボで世界共通なのだ。どこからともなくこの世界に現れたサンボが、世界の頂点を極めるのは、あまりに痛快という以上に、その異常さに脅威を覚えるほどだ。ハリウッドのご都合主義満載の映画だって、彼の成功譚ほど目覚しいものではない。彼の人気、世界制覇は、片手の指を折りきる必要もないほどの短時日で実現された。
それは、かつて英国のリバプールから現れたBトルズの”音楽革命”にも匹敵するもの、いや、それ以上だった。Bトルズが、その名声を獲得しながら、誕生から10年ほどで解散してしまったことを思えば、サンボは一人、解散で消えてしまうことなどありえない。
その本名とともに、正直、年齢不詳の彼は、三千子の肉体年齢に近いかもしれない。しかし、三千子本人の”若返り”現象を見れば、実際のところは、当然、想像するしかない。
そのサンボが、戻ってこない。
サンボは、文字通り神出鬼没だ。なにしろ、すこぶるつきの超絶超能力者なのだ。”神は二物を与えず”というが、彼は、二物どころか、三物も与えられたのだ。この世界での超絶人気ほどではないにしても、三千子の”元いた世界”でも、彼は有名人だった。その意味では”この世界”が彼の”縄張り”なのはまちがいないだろう。米大統領の名前を知らなくても、サンボを知らない地球人はいないのだ。
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