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ミュージシャンである彼が、仕事で深夜まで押すことは十分ありえるし、それに熱中すれば、家への連絡を忘れても当然かもしれない。一人身で、この部屋での長い間たった一人で、安心して寝るためにだけ借りている、そんな生活を続けていれば、三千子を妻帯したとしても、独身時代に戻ってしまうのは、むしろ当然だろう。
・・・そう理解していた。昨日までは。
「ボクは、三千子に夢中だ。本当だよ。愛しているんだ」
それは、彼の常套句だった。そして、彼は、”あれ”が上手であった。もちろん、男と女の間の、あれ、だ。正直、男性経験の少ない三千子の官能を”ほじくりだす”ことに長けており、彼女を頂点に達するまで萎えることがない。
ある知り合いの女に言わせれば、では、その彼を喜ばせる術を三千子が持っているかといえば、まったく考えたこともなかったわけで。無論、彼が三千子の体内で果てることを知ってはいたが、そのために何かサービスするかということはした記憶がない。サンボが自分に夢中だという言葉を真に受けたままだ。
「そんなことでは、男は、浮気するわよ」彼女は、はっきりといった。
サンボほどの人気者の女が、自分ひとりで終わるはずがない・・というのは、覚悟していたはずだ。そこは、賢く目をつぶる・・それは”還暦女”の分別であった。少なくとも、そう考えていた。今までは。
しかし・・違っていた。
違っていた。
”仏の顔も三度まで”ではないが、”遊び”も程度というものがあろう。
「三千子が世界を移れたのは、三千子自身にもその才能があるからなんだよ」サンボは言った。「そうだよ、三千子も超絶サイキックなんだからね。むしろ、まさに、そうだから、ボクは、三千子をお嫁さんにしたのだから」
「信じられない」とは言ったものの、それを再三繰り返され、実際こうして”別の世界”で生活すれば、”もしかして”くらいの気分になるものではないか。
そして、真っ先に彼女の中に生まれたのが”遠隔認知”とでもいうしかない能力だった。遠くの場所で起こっていることがなぜか自分の脳裏に展開されるのだ。
翌日の新聞の記事になるような事件が、三千子には根拠なくわかってしまうのだ。そんなことが何回も続けば、サンボもまた、彼女の能力の開花を認めたのは間違いない。
そんな中で、今、三千子の脳裏に展開しているのは、サンボが、20歳前の娘たち相手に、ややこしいことをしている姿だった。
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