女神炎上

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るるる・・  青白い炎のようなものが、三千子の体から立ち上ってきた。 くう・・  三千子の目にも青い光が宿る。 ”どうしてくれようか”  そこに、どこか別の世界で、失踪した弟の代打として、彼の残したGENKENの会員たちに示した”女神”の片鱗も存在しなかった。  ただ一人の、”女”  自分の正体が、老婆であるという自覚が、これほど簡単に彼女を堕落させるとは、誰が考えただろうか。  あの”真の救世主”の姉としての自覚と緊張が、彼女に彼女以上の”聖女”を演じさせていたこと、それを認めないではいかれないだろう・・  むろん、今の彼女は、そこまでの意識はないが。  それは、あの失踪した弟の卓が残した、姪御の美惠子を引き取って育てたわけだが、それが弟の丈への”禁断の恋情”を持ってしまったこととも、無関係ではないかもしれない。  自分の”奇矯さ”が、美惠子の中に、女としておかしな発想を持たせたのではないか。特段、何かの人間心理の専門家ということでもないのだが、親世代の背中を見て子供が育つことは、そうした心理育児の英文教本の翻訳をしたこともあり、知識としては持っていたのである。  自分が”元の世界”を離れたのも、あるいは弟と姪御の禁断の関係を傍観するであろう無責任な自分を見せたくないという気持ちがあったのは間違いないのである。  三千子に言わせれば、美惠子は、間違いなく失踪した弟卓の忘れ形見だった。美惠子が丈を恋慕するのも、失踪した卓に対する彼女の屈折した倫理意識の結果であり・・それを思えば、簡単に責めることも出来なかったのである。 ”もう、自分は東の家から自由になっても良いだろう”  そんな気持ちが、三千子の中に生まれていた。それまで、あまりに当然だった東の家が、自分を拘束する”檻”以外の何者でもなく思えてきたのである。その逆転は、あまりに唐突であったが、その是非は、三千子には出来なかった。  自分がなぜ、ここまで東の家にこだわってきたのか、わからなくなってしまったのだ。その喪失の心の中に、あのサンボがすかさず、スルリと、あまりに自然に入ってきた。そこに違和感を感じるには、この世界の三千子はあまりに準備が出来ていなかったのである。  その意味では、あまりに簡単だが、この世界の三千子は、あまりに”ただの女”だったのである。心理学の原初の翻訳もして、耳学問が絶無ということはなかったのであるが、その内容と自分の心のありようを比較し、検証するなどということは、生まれて一度もしてこなかった。それは、あまりに危ういことであったというしかない。
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