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――――いいわけあるかぁっ!!
ヤっさんは叫んだ。
叫んだつもりだったが、代わりに口から飛び出たのは悲鳴だった。
「っ痛てぇ!!?」
そうして床のうえに尻餅をつく。打ち付けた尾てい骨が痛い。だがそれ以上に足が痛い。
何事かと足を見下ろせば、右足、左足―――わさわさ、わさわさ。ごま塩模様の黒い虫が無数に膝の辺りまで蠢いて・・・それらはうぞろうぞろと膝から更に上へ・・・太ももへ、尻へと這い上がっていく。
ぼだだ、と床に赤い血が舞った。ぐじぐじと湿った音が取り調べ室に響いた。
―――痛い、痛い、痛い。
今朝蚊に噛まれた時の痛みの比では無い。噛まれている、喰われている、肉を裂いて、筋肉を突き進み、骨まで齧り付かれて・・・・
「フ・・・フクさっ!」
助けを求めて、年上の相棒を呼ぶ。しかし帰ってくるのは「ふがふが」とくぐもった声だけだ。
見ればフクさんの頭は金食い虫に集られて、真っ黒な塊になっている。シャツは内側からぼこぼこと膨らんだりへこんだり、白かった色は赤茶色に染まっていた。手足は滅茶苦茶に動き回り、まるで下手くそなダンスでも踊っているかのようだった。
『助かるでさ、助かるでさっ!人間サンはいい人でさ』
『人間サンを食べていいでさ。これで絶滅しないで済むでさ』
『また家族を増やせるでさ』
まて・・・まて・・・・。
「お前等は・・・金を・・・喰うんだろう・・・?」
床についた手にも、金食い虫達が集りだす、あっという間に指先の感覚がなくなり、肘から先が崩れ落ち・・・。
ヤっさんはすでに見上げるようになってしまった机を見つめる。机の縁から三匹の金食い虫達が触覚を嬉しげに振りながらヤっさんの疑問に答えた。
『フィナンシェもいいけど、やっぱり一番は金でさ。金が主食でさ』
『人間サンは良い人でさ。』
『人間サンの中の金、喰わせてもらうでさ』
ヤっさんは机を見上げながら喘いだ。―――その口に向けて、金食い虫達はぴょ~いと飛び込んで来た。
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