人間の体には0.0005%の金が含まれている

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 ――――かくして、某日。   警察署の取調室では、ベテラン刑事二人と三匹の昆虫が無機質なその部屋で向き合う事となった。  「ええと・・・・カミキリムシ?」  ヤっさんは三十路を越える刑事だ。テレビドラマでも昨今珍しい、自分の足で地道に捜査し、汗水たらして結果をもぎとる、昭和根性ばりばりの肉体派刑事である。  無機質な四角い部屋、硬いパイプ椅子で向かい合った、これまた硬い机の向こう側にはごま塩模様の黒い虫が三匹、前脚、中脚、後脚を踏ん張らせてそこに並んでいる。  黄金のフィナンシェ盗難事件は、世間の注目を浴び、スイーツ好き達が血の涙と汗を流しながら犯人を捜し回り、警察も威信をかけて捜査員を投入し・・・。  そうして、全く別の洋菓子店で、できたてほかほかのフィナンシェに群がるカミキリムシ達を、現行犯で捕らえる事に成功したのだ。  『アッシらはカミキリムシじゃございやせん。金食い虫でさ』    ぴょいっと、前脚を上げて、真ん中のカミキリムシ・・・もとい金食い虫が口を利いた。ざりざり、さりさりした、電子音にも似た声だ。  ヤっさんはちょっと困り顔で、部屋の戸の脇に佇む先輩刑事のフクさんに視線を送る。壮年のフクさんは、好々爺然とした顔をそのままに「金食い虫なんて虫は初めて聞くなぁ」と、いつも通りののんびり口調。  「だよなぁ・・・」とヤっさんも口の中でモゴモゴ同調した。人間の金食い虫なら何となく解る。でも『金食い虫』なんて名前そのものの昆虫は見た事も聞いた事もない。  というか、こいつらを見ていると足が痒くなる。ヤっさんは今朝がた蚊に噛まれたばかりなのだ。今その場所は靴下の中で赤く膨れて皮膚をチリチリと刺激している。
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