人間の体には0.0005%の金が含まれている

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 ――ヤっさんとフクさんは長年のコンビだ。『地獄のヤっさん』、『仏のフクさん』。飴と鞭を使い分け、犯人に対峙する際には、ヤっさんが強引に迫り、フクさんが宥めてすかし、いつだって結果を出してきた。何とも時代遅れなコンビであるが、今のところ弁護士に乗り込まれた事は無い。  しかし流石の『地獄のヤっさん』も、虫の取り調べなんて初めてだ。初めてだけれども、この虫達が世間のスイーツ好きを地獄の底にたたき落とした凶悪犯である事には変わりなく、当然、尋問の手を緩めるわけにはいかない。ヤっさんは人より深い眉間の皺をさらに寄せて金食い虫達を威圧した。  「お前さんらが、かの名高き洋菓子店の、限定百個販売、黄金のフィナンシェを盗んだ犯人に違いねぇな」  『盗んだなんて・・人聞き、虫聞きの悪い。アッシら食事をしただけでさ』  『アッシらは生きてまさ。おまんま食わにゃ死んでまいまさ』  『でさでさ』  三匹の金食い虫はかしましい。六本の脚を机に向ってばたばたと。人間でいう地団駄だろうか。虫は虫なりに抗議を示しているらしい。  「開店前の店に侵入して、金も払わずに商品食い尽くしゃあ、そりゃあ人間の社会じゃ泥棒ってんだよっ!」  ばぁん、とヤっさんが机を拳で叩いた。机が揺れて、その勢いでぴょ~いと金食い虫達が三匹仲良く宙に跳ねた。  『だってアッシら虫でさ!』  『だいたい人間だって自然界のもん何でも食うでさっ。野山に入って山菜取って、獣を狩って、虫だって喰うでさ!!』  『人間ほど何でも食べるヤツはいないでさ!』  きいきい、かあかあ。電子音でかしまいく抗議されると耳の奥が可笑しくなりそうだった。ついでに足の痒みも増す。ヤっさんは足を掻くべきか耳を塞ぐべきかちょっと迷った。迷ってどちらも辞めた。ただのずぼらである。  「俺は虫は喰わねえ!」  『ホントでさ?』  『あれ、着色料って虫が入ってんじゃなかったでさ?』  『都市伝説でさ?――でも、この前ネットでみたでさ』  虫のくせに人間社会に詳しいなぁ・・・とヤっさんはちょっと明後日の方向に思考が飛んだ。ネットを検索する昆虫・・・シュールだ。  「入っているなぁ。コチニール色素なんて有名だろ。ハムとかソーセージとか」  フクさんがほのぼのした口調で言う。――知りたくなかった、そんな事実。  ちなみにヤっさんの今日の朝食はハムエッグとトーストとソーセージだ。野菜は食べない主義である。そろそろ体臭が怪しい。
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