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一番右の金食い虫が頭部を低くして、フクさんの顔を伺うようにして利く。
フクさんは細い糸目を精一杯、しばたたかせてみせた。
『吸血鬼サンは血に飢えた時、薔薇の精気を代用するでさ?
確か人間の書物にそんな事が書いてあるのを読んだ事があるでさ』
「ああ、うん。そんなのもあったかなぁ。元ネタは原作じゃなくて、どっかの漫画だった気がするけれど・・・」
『それと同じでさ。アッシらは金の代わりにフィナンシェを食うでさ』
『フィナンシェの形は、金塊を元にしたものでさ。アッシらにとっての金でさ』
『それに、名は体を表すと言うでさ。フィナンシェは異国語で金融家という意味でさ。形も金なら意味も金。アッシらにとっては貴重な代替品でさ』
そんなものでいいのだろうか。――ヤっさんはちょっと思った。
こいつらの腹の中はどういう造りになっているのだろうか。
現実逃避よろしく、ヤっさんは足の痒いところをかきむしる。――ぼりぼり、ぼりぼり。ちょっと皮が剥けたかもしれない。
フクさんはまだこの新種の虫に興味が尽きないらしく、質問を続けた。
「その・・・・フィナンシェを代用しなければならないような理由でもあるのかね?
金が食べられなくなるような」
「勘弁してくれよフクさん。――金を虫共に食われたら、今回の事件以上に大事だ。」
虫の食欲がどれほどか知らないが、被害総額はいかほどになるのか。
金食い虫達もうんうん、とその全身を使って頷いて見せた。
『アッシらが食えるだけの金を採掘する鉱脈は減ったでさ。それでも最初は人間達が保管している金を食ってたでさ』
『けんど人間達は虫一匹入れないような金庫やケースの中に金をしまい出したでさ』
『それに、アッシらに金を食われた人間が、高名な坊さんに依頼してアッシらの仲間の大半が調伏されちまったでさ』
「・・・・妖怪かっ!」
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