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フクさんは虫達に視線を合わせるように腰を落とすと、諭すように口を開いた。
「君達が金を食べる虫だというのは解った。けれども金も菓子も人間社会のものだ。それに手を出そうとするなら人間社会の掟に則って対価を払わなきゃあいけない」
『金銭でさ?』
『虫を雇ってくれるところなんて無いでさ』
『むしろ殺虫剤ふられるでさ』
「まあ・・・うん」
金を喰う虫など、有効利用する方法が思い浮かばない。そも、虫に賃金払うような人間はいないだろう。
『金もフィナンシェも食えないなら、アッシ等は絶滅するしか無いでさ』
『人間は絶滅種を厚く保護してくれるって聞いたでさ』
『アッシら死にたくないでさ』
フクさんが困ったようにヤっさんを見る。――そんな目で見ないで欲しい。
『人間サン、人間サン。教えて欲しいでさ。アッシらは何を食べて生きていけばいい?』
じ。――と、金食い虫達の目がヤっさんに集中する。やめて欲しい。足の痒みが増す。
「だから、虫なら植物とか、小さな虫を食えばいいだろうが」
『虫なんて喰わねえでさ』
『植物も喰えねえでさ』
『雲や霞食っても生きられねえでさ』
仙人かっ!――とヤっさんは心の中で突っ込む。ぼりぼり、ぼりぼりかきむしった虫刺されが皮膚を破って血が流れた。その鈍い痛みに舌打ちする。
「ああ、もう・・うっせぇなっ!虫っつったらアレだろうが。
ちくちく人に噛みついたりとか、刺したりとか、つかお前等見てると痒みが増すんだよ!!もう今日はいいだろうが」
ヤっさんは勢いよく立ち上がった。パイプ椅子が床に転がる。これ以上付き合ってはいられない。早くコンビニに行って薬を買ってくるのだ。
フクさんが「まあまあ」とヤっさんを宥めてくる。
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